248:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 23:32:07.60 ID:1/ZkFkMM0
本番直前、ステージ衣装に着替えて舞台袖に立つ。
入場口が開放されて間もなく、客席は満杯になった。
屋内の会場は初めてだったが、観客達の興奮と期待が込められたざわめきが大気に霧散しないまま、余さずこちらに届いてくる。
湧いてくる緊張感は、こちらの方が上かも知れない。
249:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 23:36:19.32 ID:1/ZkFkMM0
「そういえば、千夜ちゃん」
「あ、いたいた。ちとせさん千夜ちゃん、ちょっと皆でMCの……」
李衣菜さんの真っ直ぐな声が聞こえた瞬間、それはテキトーな調子のあの人に遮られた。
250:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 23:40:36.07 ID:1/ZkFkMM0
「……話の続きを」
これ以上、この人に自嘲じみた心持ちになってほしくなくて、話を促すと、「あぁそうそう」と胸の前で手を合わせた。
「千夜ちゃん、あの人から話、聞いた?」
251:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 23:44:15.05 ID:1/ZkFkMM0
結局、リハーサルは見なかった。
どんな様子だったのかを、他の皆から聞くこともしなかったし、皆も私に配慮をしてくれたのだろう。誰も話をしてこなかった。
「一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか」
「なぁに、畏まっちゃって」
252:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 23:49:50.14 ID:1/ZkFkMM0
「そんなこと、聞かれても分からないなぁ。
期待に応えると言ったって、ほとんど知らない人だし……ただ、ひとつだけ思い知らされたのは、私自身の愚かさ」
俯き、胸に手を当てて、ちとせさんはそれまで押さえ込んでいたであろう想いを私に吐露する。
253:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 23:51:51.28 ID:1/ZkFkMM0
「いえ」
私が真っ直ぐに見つめると、その視線に気づいた彼女が私に向き直ってくれた。
「私の方こそ、この事務所で多くのことを学び、多くのものを得ることができました。
254:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 23:59:21.96 ID:1/ZkFkMM0
視線を戻すと、目の前の人は黙して私を見つめ続けている。
「ここまで一つのことに夢中になれるなんて、思いませんでした。
一度は心を捨てた身としては、過ぎた幸せです。
私にとって、美というのは手に入れるものではなく、眺めて愛でるもの。
255:名無しNIPPER[saga]
2019/11/24(日) 00:01:43.66 ID:Hn+oLRjQ0
「止めない」
頬から、お嬢様の手が私の首筋を撫で上げ、その指が彼女の唇にスゥッと止まる。
改めて気づかされる、息を呑むその美しさ――。
256:名無しNIPPER[saga]
2019/11/24(日) 00:11:37.14 ID:Hn+oLRjQ0
――――。
「皆さん……スパシーバ!!」
257:名無しNIPPER[saga]
2019/11/24(日) 00:16:32.77 ID:Hn+oLRjQ0
悉く、強い個を持つ集団の集まりだと、改めて思わされる。
この人達には皆、他者に分け与えずにはいられない、溢れるほどの力がある。
「チヨ」
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