252:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 23:49:50.14 ID:1/ZkFkMM0
「そんなこと、聞かれても分からないなぁ。
期待に応えると言ったって、ほとんど知らない人だし……ただ、ひとつだけ思い知らされたのは、私自身の愚かさ」
俯き、胸に手を当てて、ちとせさんはそれまで押さえ込んでいたであろう想いを私に吐露する。
「千夜ちゃんに生きがいを与えたくて、飛び込んだ世界。
千夜ちゃんのステージに近づきたくて、向き合った現実。
私がアイドルとして生きた時間には、いつも千夜ちゃんがいてくれた。
だけど、死んじゃいそうになるくらい、そこに至るまでの道のりは、辛くて苦しいの。
千夜ちゃんには悪いけれど、こんなに大変な思いをしてまで得た感動が、大したこと無かったらどうしようって、何度も頭によぎる打算的な私がいたよ」
「僭越ながら、経験者として言わせてもらいますが」
コホンと、照れ隠しの咳払いを一つしてみせる。
「先ほど玲音さんの仰ったことに、嘘はないかと思います。
ただ、それは経験した者にしか分かり得ないことかと」
「そうだよね」
彼女が顔を上げると、その潤んだ瞳が舞台を照らす照明に光って見えた。
「分からなかったから、欲しかったんだよね、きっと……
偉そうなこと、千夜ちゃんに言ってた割に、自分自身のことを分かっていなかったのは、私の方だったんだね」
301Res/285.11 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20