白雪千夜「足りすぎている」
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255:名無しNIPPER[saga]
2019/11/24(日) 00:01:43.66 ID:Hn+oLRjQ0
「止めない」

 頬から、お嬢様の手が私の首筋を撫で上げ、その指が彼女の唇にスゥッと止まる。
 改めて気づかされる、息を呑むその美しさ――。

「無理矢理は主義じゃないの。
 だから、私が気づかせてあげる。千夜ちゃんにも、花開く瞬間を待ちわびている素敵なつぼみがあるんだってこと。
 自分も輝かずにはいられない、眠れる姫を起こす魔法を、今夜私が見せるから……ちゃあんと、受け取ってね?」

「……もちろんです。とくと拝見させてください」
「だからぁ、そういう仰々しいのやめようよ千夜ちゃん。
 まだ千夜ちゃんにとって、私は“ちとせさん”でしょ?」
「ふふっ、すみません」

 私は幸せだ。
 この人の笑顔をこうして間近で見られるだけでなく、この人の放つ美も享受できるのだから。


 私にできることは、役割を果たすこと。
 最後となるであろうステージを、滞りなく完遂すること。

 幸い、今日私が歌う曲はダンサブルなものではない。
 複雑なステップは多くなく、間奏に入った直後に訪れる大振りのステップ・ターンにさえ気をつけていれば問題は無いだろう。
 それより、ボーカルに神経を集中させなくては。

 喉の調子を今一度確かめる。
 よし――あとは、このコンディションを保つ。



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