198:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 18:33:03.07 ID:1/ZkFkMM0
――いきなり、何を言い出すかと思えば。
「考えませんでした。それが何か」
「それは、なぜでしょうか」
「なぜって……名字が無くなってしまうからです。それ以上の理由が?」
199:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 18:37:37.35 ID:1/ZkFkMM0
アーニャさんが泣きそうなほど上ずった声で、私に叫ぶ。
「チヨは、私にくれました。優しくて、キレイな思い出。
まだ……まだ思い出して、くれないですか?」
200:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 18:39:14.97 ID:1/ZkFkMM0
――――
「……お申し出をくださり、ありがとうございます」
201:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 18:42:01.35 ID:1/ZkFkMM0
――それが正しい記憶なのかは、分からない。
一度は捨てて忘れ去ったものの真贋を見定めるのに、5年という歳月は私には長すぎた。
だけど――。
202:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 18:45:19.94 ID:1/ZkFkMM0
アーニャさんの瞳から、とうとう涙がこぼれ落ちた。
豊かな心を持つ彼女から、堪えきれずに地上に落ちる、温かな涙。
私のそれと、同じものとは思えない。
203:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 18:47:24.05 ID:1/ZkFkMM0
振り返れば、コイツがスカウトしていなければ、私達が再会することもなかった。
一歩を踏み出した先の可能性――思わぬ所で、得難き出会いがあったのだ。
「礼にはおよびません。
それに、まだ終わったわけではないのですから」
204:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 18:50:47.73 ID:1/ZkFkMM0
* * *
「1、2、3、4、1、2、3……!」
端っこに座り、三人のレッスンの様子をジッと見守る。
205:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 18:53:45.89 ID:1/ZkFkMM0
私は、体が空く時があればクローネのレッスンに参加させてもらえるよう、アイツに調整してもらった。
アーニャと一緒にいたいというのもあるが、単純に興味を持ったのだ。
理想のアイドル像と、それに至る道のりについて、常務がどのように考えているのかを。
206:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 18:59:38.65 ID:1/ZkFkMM0
最初こそ戸惑われたが、私のあの人に対する呼び方の変化も、今では皆に受け入れられてきている。
凜さんは、少し考える素振りを見せた後、どこかとぼけるように首を捻った。
「調子は、良いんじゃないかな。
どの程度の出来にまでなっているかは分からないけど、この前みたいに、倒れたって話は最近聞かないし」
207:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 19:02:23.14 ID:1/ZkFkMM0
そう言った後、慌てて手を振った。
「あ、いや、別に僻みとか羨ましいとか、そういうのじゃないよ?
私もずっと応援してるし、むしろ今ではちとせさん以外考えられないし。
とてもじゃないけど、私じゃ務まらないことを、弱音も吐かずにこれまでやり続けているの、すごいよ。でも」
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