188:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 17:56:51.78 ID:1/ZkFkMM0
「……まずいです」
「やっぱり?」
案の定ボソボソしている。玉ねぎどころか、つなぎに小麦粉もパン粉も入っていないのではないか。
ソースも、醤油を水で伸ばしたかのようなシャバシャバとボンヤリした味わいで、中途半端な塩味が見事に口当たりを邪魔している。
189:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 17:59:54.17 ID:1/ZkFkMM0
「白雪さんが、そのように思い詰めていたとは気づかず……申し訳ございません」
「いえ……私の方こそ、話をしませんでしたから」
コイツの慎重な運転で、暗い山道を下っていく。
190:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 18:01:01.81 ID:1/ZkFkMM0
――私の誕生日、か。
アーニャさんも、時折こうして洒落たことを言う。
それなら――そうだ。
191:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 18:05:21.03 ID:1/ZkFkMM0
道順を示しながら向かった先は、黒埼家から山道を少し下った先にある小高い丘だった。
車を下の広場に止め、落ち葉が降り積もる小道を上ると、直にその上から緑に覆われた山々と、麓の街並みが遠くに見える。
だが、それは昼間の話。
192:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 18:06:56.62 ID:1/ZkFkMM0
かぶりを振って、足元の落ち葉を一度、軽く蹴っ飛ばしてみる。
戯れにはしゃいでみるのは――柄にも無くセンチメンタルな気分に浸るのは、今の私にはこの程度で十分だ。
「黒埼家から決別……もとい、自立をするに当たって、過去を一度、清算するべきかなと、思ったもので」
193:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 18:11:15.86 ID:1/ZkFkMM0
アーニャさんは、それ以上何も言わない。
ただ、いつかの時と同じように――何か言いたいことがあるはずなのに、それを必死で我慢するような――。
しかし、今日のそれは笑顔ではなかった。
今にも泣き出しそうな、星空ではなく、氷のように寂しそうな瞳。
194:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 18:17:20.83 ID:1/ZkFkMM0
冷たく澄んだ風が、頬を切り裂く。
あの日の小樽も、これよりもっと乾いた空気だったのだろう。
「その日、私は外に出ていて、日が暮れて帰った時には、家がありませんでした。
出かける頃にはまだあったはずの家が、骨組みだけを残して、燃え尽きていたのです。
195:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 18:20:02.58 ID:1/ZkFkMM0
修復不可能な傷を受けた心は、そのまま放っておくと他の部分まで侵食し、壊死してしまう。
当時の私は、おそらく無意識的にそう考えたのだろう。
だから、切り落とした。
悲しみも、それまでの思い出も、丸ごと投げ捨てると、私の心は文字通り軽くなった。
196:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 18:22:43.76 ID:1/ZkFkMM0
お嬢様、か――自嘲じみた笑みが独りでに零れる。
「そう……私は、ちとせさんに依存しきっていました。
あの人の従者でいることが私のアイデンティティであり、存在の証明だった」
197:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 18:24:50.82 ID:1/ZkFkMM0
消え入るような声が、漂う暗闇の中にポツリと落ちた。
「アーニャさん?」
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