196:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 18:22:43.76 ID:1/ZkFkMM0
お嬢様、か――自嘲じみた笑みが独りでに零れる。
「そう……私は、ちとせさんに依存しきっていました。
あの人の従者でいることが私のアイデンティティであり、存在の証明だった」
後ろに向き直り、黒い定規を見つめた。
コイツは、私が考えるよりもずっと、私のことを見てくれていたのかも知れない。
「お前の言うとおりだったのかも知れません。
あの人を想う私の気持ちは、真の意味での献身ではなく、従者としての存在意義を保つための私のエゴだった……それは、否定できないでしょう。
私には、何も無かったのですから」
空恐ろしくなり、膝が震えそうになるのを必死で堪える。
「無価値の私は、従者という誰にでもできる役割に自分の分を見出し、これを盾にして逃げていました。
かつてお前が言った、一歩を踏み出し、広がった世界で可能性に出会うということは、私にとってどれほど恐ろしいことだったか……。
しかし、私はもう、黒埼家から解き放たれた……自分の足で歩き、自分の価値を作り上げるというのは、気が遠くなるほどに非常なことです。
何も無い私が、憧れの対象だったちとせさんに対峙できるようになるために、お前の力を貸してください」
「何も無いなんて……言わないでください」
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