195:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 18:20:02.58 ID:1/ZkFkMM0
修復不可能な傷を受けた心は、そのまま放っておくと他の部分まで侵食し、壊死してしまう。
当時の私は、おそらく無意識的にそう考えたのだろう。
だから、切り落とした。
悲しみも、それまでの思い出も、丸ごと投げ捨てると、私の心は文字通り軽くなった。
196:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 18:22:43.76 ID:1/ZkFkMM0
お嬢様、か――自嘲じみた笑みが独りでに零れる。
「そう……私は、ちとせさんに依存しきっていました。
あの人の従者でいることが私のアイデンティティであり、存在の証明だった」
197:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 18:24:50.82 ID:1/ZkFkMM0
消え入るような声が、漂う暗闇の中にポツリと落ちた。
「アーニャさん?」
198:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 18:33:03.07 ID:1/ZkFkMM0
――いきなり、何を言い出すかと思えば。
「考えませんでした。それが何か」
「それは、なぜでしょうか」
「なぜって……名字が無くなってしまうからです。それ以上の理由が?」
199:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 18:37:37.35 ID:1/ZkFkMM0
アーニャさんが泣きそうなほど上ずった声で、私に叫ぶ。
「チヨは、私にくれました。優しくて、キレイな思い出。
まだ……まだ思い出して、くれないですか?」
200:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 18:39:14.97 ID:1/ZkFkMM0
――――
「……お申し出をくださり、ありがとうございます」
201:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 18:42:01.35 ID:1/ZkFkMM0
――それが正しい記憶なのかは、分からない。
一度は捨てて忘れ去ったものの真贋を見定めるのに、5年という歳月は私には長すぎた。
だけど――。
202:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 18:45:19.94 ID:1/ZkFkMM0
アーニャさんの瞳から、とうとう涙がこぼれ落ちた。
豊かな心を持つ彼女から、堪えきれずに地上に落ちる、温かな涙。
私のそれと、同じものとは思えない。
203:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 18:47:24.05 ID:1/ZkFkMM0
振り返れば、コイツがスカウトしていなければ、私達が再会することもなかった。
一歩を踏み出した先の可能性――思わぬ所で、得難き出会いがあったのだ。
「礼にはおよびません。
それに、まだ終わったわけではないのですから」
204:名無しNIPPER[saga]
2019/11/23(土) 18:50:47.73 ID:1/ZkFkMM0
* * *
「1、2、3、4、1、2、3……!」
端っこに座り、三人のレッスンの様子をジッと見守る。
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