モバP「持たざる者と一人前」
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59: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/17(土) 18:11:59.08 ID:9YnfOZCp0
「“アイドル”って、何なの」

 きっとそれは、彼女が持つ疑念の根底となるものなのだろう。それはさっきの、なぜこんなにも必死なのかという問いかけに答えるものでもあるのかもしれない。

 ゆっくりと俺は目を閉じる。“アイドル”とは何か。その自問自答は何度でもやってきたことだった。それに、自分なりの答えはある。ただ、明確に言葉にはしてこなかった。
以下略 AAS



60: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/17(土) 18:12:31.14 ID:9YnfOZCp0
『クラスの人気者の面白くもない馬鹿話に笑ったふりをするばかりで、なんのために生きてんだろうって思うぐらいで。流されるまま生きるだけの存在』

 その言葉に微か、彼女が目の前で身じろぐ。ああ……そうだよね。君も、そうなんだよね。交番で彼女の目の奥に感じた既視感の正体が今ならわかる。

 それはきっと、漠然とした将来への不安と、熱意を向ける先のないことへの焦燥。つまらない日常をただ流されるだけの日々に、このままでいいはずがないと思っていても……何をすればいいのかわからない無間地獄のそれ。
以下略 AAS



61: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/17(土) 18:13:01.45 ID:9YnfOZCp0
『――ああ、すげえなって。俺はあんな人にはなれないけれども、でも“憧れるな”って』

 その時から俺の中のすべてが変わった。漠然と農家を継ぐんだろうというよくわからない将来像しかなかったのに、“アイドル”に携わる仕事がしたいと思った。そんなことは初めてで、あまりの熱中ぶりに親父やお袋に随分迷惑を掛けた。

 そして見つけた。“アイドル”を世に送り出す仕事を。プロデューサーと呼ばれる存在になりたいと心底思った。
以下略 AAS



62: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/17(土) 18:13:28.71 ID:9YnfOZCp0
『君は俺の人生を変えてくれた。“君の”プロデューサーになりたいって、脇目も振らずに思ってる。……だから君は俺にとって、もう“アイドル”なんだよ』

 あっけに取られている彼女に、俺は内ポケットから名刺入れを取り出した。中には数枚の無地の名刺。俺の名前と連絡先だけ書かれた、シンプルに過ぎるそれ。

 その一枚を抜き出して、彼女の前に差し出す。
以下略 AAS



63: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/17(土) 18:13:57.73 ID:9YnfOZCp0
『三日後の土曜日、午後二時。あの交番の前の広場で待っています。……それで、最後にしますので。どこにいたって、見つけ出して見せます』

 まるで学生の告白のようだ、と内心で自嘲する。そう、それが俺のタイムリミット。それは言わなかった。同情を買いたいわけじゃあないし……夢は売っても同情を買うのはプロデューサーの仕事じゃないって、そう思うから。

 だからだろう。彼女は頷かなかった。けれども否とも言わなかった。
以下略 AAS



64: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/17(土) 18:14:45.82 ID:9YnfOZCp0
本日はここまでになります。
次回が最後になると思います。早ければ夜半にでも。
ありがとうございました。


65: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/18(日) 15:24:54.67 ID:BON9hvjh0
□ ―― □ ―― □




以下略 AAS



66: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/18(日) 15:25:21.66 ID:BON9hvjh0
(はは、馬鹿はもともとだったかな)

 小さく自嘲する。そうじゃなきゃ、こんなザマでプロデューサーになろうなんて思うはずもない。

 するとその様子を見てとったのだろう。社長が尋ねてくる。
以下略 AAS



67: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/18(日) 15:25:48.03 ID:BON9hvjh0
『け、結果的には、そうなるかもしれません。ですが、後悔はないです』

「……なるほど」

 社長は何かを考え込む素振りをした。そして数瞬後、
以下略 AAS



68: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/18(日) 15:26:14.30 ID:BON9hvjh0
「……理由を聞いても?」

 ぎらついた社長の目に射すくめられながら、それでも身を震わせて応える。

『……証明するって、言いましたから。是非もなく、は違います。約束ですから。それに――』
以下略 AAS



69: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/18(日) 15:26:40.89 ID:BON9hvjh0
「君が何を以て証明としようとしたか、それは分からん。だが君が口先だけでだまくらかそうとしたわけではない、とは分かった。……頭を上げたまえ」

 俺はまだ、頭を上げない。ひどい裏切りをしたと分かっているから。それに、そんなに軽い約束ではなかったと、今も思っているから。

 そんな俺の様子を見たのか、頭上でため息が聞こえた。
以下略 AAS



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