61: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/17(土) 18:13:01.45 ID:9YnfOZCp0
『――ああ、すげえなって。俺はあんな人にはなれないけれども、でも“憧れるな”って』
その時から俺の中のすべてが変わった。漠然と農家を継ぐんだろうというよくわからない将来像しかなかったのに、“アイドル”に携わる仕事がしたいと思った。そんなことは初めてで、あまりの熱中ぶりに親父やお袋に随分迷惑を掛けた。
そして見つけた。“アイドル”を世に送り出す仕事を。プロデューサーと呼ばれる存在になりたいと心底思った。
だから俺はこう答える。
『――名も知らぬ誰かに夢を、人生の道標をもたらせる存在。それを偶像《アイドル》と呼ぶのだと、俺はそう思う』
俺は笑う。そうだとも、あの動画の彼女は、俺にプロデューサーという人生の道標をくれた。あの日、あの時、見ることがなければ絶対に進むことのなかった未来へのしるべ。
『君は“アイドル”になれるってそう思ったんだ。いまも、そう思っているよ』
「そんな! ……そんなの、なれるわけないでしょ」
『なれるよ』
断言した俺の言葉に、彼女は一瞬言葉を失う。わかるよ、何を根拠にってね。そうとも、その通りだ。だって根拠なんてないんだから。
だから俺は言った。俺の精一杯をすべて詰め込んで。
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