59: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/17(土) 18:11:59.08 ID:9YnfOZCp0
「“アイドル”って、何なの」
きっとそれは、彼女が持つ疑念の根底となるものなのだろう。それはさっきの、なぜこんなにも必死なのかという問いかけに答えるものでもあるのかもしれない。
ゆっくりと俺は目を閉じる。“アイドル”とは何か。その自問自答は何度でもやってきたことだった。それに、自分なりの答えはある。ただ、明確に言葉にはしてこなかった。
思い返す。なぜ、あの動画の彼女を“アイドル”と思ったのか。その原点は――。
『――初めて君を見た時、どうしようもなく惹かれたのは……きっと、君が俺と似ているって思ったから』
「似ている……?」
『……四年前の俺は、たぶん、ただ生きているだけだったんだと思う。わかるかな? この感覚』
ゆっくりと目を開きながらそう言った。そう、あの時の俺はありていに言えば、いてもいなくても変わらないだろう、そんな存在だった。今もそうかもしれないけれど、でも突然誰かに連れ去られたとしてもきっと、すぐに替えが出てくると思えるような人間。
『俺は農家の息子でさ、将来の夢なんてこれっぽっちもなくて。趣味といえる趣味もない、ただ課業をこなすだけの学生だった』
あるいは良くある話だと思う。何をやっても人並み以上にならなかった俺のような人は、もしかするとどこにでもいるのかもしれない。けれど、それはとてもつらいことだった。
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