58: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/17(土) 18:11:25.03 ID:9YnfOZCp0
□ ―― □ ―― □
「……なんでそこまで、必死なの。私くらいの人なんてどこにでもいるじゃん」
うわごとのような彼女の言葉。ぽつりとこぼれたそれに、俺は答える。
『君となら、きっとやっていけると思ったから』
即座に拒絶されなかったことに感謝をしつつ、正直に。そうだ、本当に、ただそれだけなんだ。だが俺の答えは満足できるものではなかったのだろう。彼女の表情が少し歪む。
「そんなの! ……ねえ、誰にでもそう言ってるんでしょ」
問い詰める言葉にも、俺は正直に答える。
『ああ……うん。確かにそうだった。正直に言えば、これまで何人も、何十人も声を掛けてきたよ』
何度も何度も選んできた。その全てに断られたとしても、俺はティン! ときたものを選び続けてきた。
『もしかすると君からすれば、俺は君のことを多くの中の一人として見ているように思うかもしれない』
俺は言葉を区切る。確かにそう思われても仕方がない。誰にも彼にも声を掛けて、数撃ちゃ当たるをやっているだけだって。
『けれどそうじゃない! そうじゃないんだ。それは胸を張って言える。いつだって俺は俺の全力で、“この子なら”って思う人に声を掛け続けてきたんだ』
俺は彼女を選んだ。後も先もないつもりで。一歩たりとも妥協なんてしていない。目の前の彼女が、俺にとってのただ一人の存在だと今でも信じている。
その思いを込めて、彼女を見た。揺れる胡乱な目の向こうを見ようとばかりに。彼女も、俺を見返してくる。やがてその口がゆっくりと開いた。
88Res/88.77 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20