モバP「持たざる者と一人前」
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52: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/17(土) 18:08:39.85 ID:9YnfOZCp0
□ ―― □ ―― □



 さてもさても、効果は抜群だった。
以下略 AAS



53: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/17(土) 18:09:06.71 ID:9YnfOZCp0
(四日ぶりか。なんだかひどく久しぶりな気がするなあ)

 俺は立ち上がってスーツに着替える。もうその必要はないのかもしれないが、なんとなくあの花屋に行くときはスーツじゃないといけない気がしていた。

 電車で片道二十分ほどの距離。よく考えると、これほどの距離をよくもまあ歩いたと思う。実際にはずっともっと歩いているのだから、自分の健脚ぶりに思わず笑ってしまいそうになるな。
以下略 AAS



54: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/17(土) 18:09:35.22 ID:9YnfOZCp0
「あっ、その携帯電話って」

『はは……君に拾ってもらった奴です。その節は本当にお世話になりました』

 などと言いながらぷち、ぷちとボタンを押す。何度かそれを繰り返せば、画面に映っているのは――。
以下略 AAS



55: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/17(土) 18:10:03.29 ID:9YnfOZCp0
「それにしても、意外と普通なんだね、お客さんって。急に“アイドル”とか言い出すからちょっとヤバい人なんじゃないかって思ってたけど」

「あはは……」

 その評価に苦笑することしか俺はできなかった。超ごもっとも。俺だってそう思うよ。ただちょっとだけ、お客さんと呼んでくれたことにはガッツポーズをしたい気分だ、なんて思いながら言葉を返す。
以下略 AAS



56: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/17(土) 18:10:31.07 ID:9YnfOZCp0
『それが、俺の“アイドル”なんだ』

 言ってから、俺もまたのぞき込むようにその動画を見る。何度見ても見飽きない。ずっとずっと、俺の中の目標であり続ける人。

 泡のはじけるような、心地よい歌声。決して動きは大きくないけれど、だからこそ動きの一つ一つが丁寧な振り付け。
以下略 AAS



57: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/17(土) 18:10:58.05 ID:9YnfOZCp0
「これが……?」

『うん。少なくとも……俺にとっては、間違いなく。そういう人を、世に出したいと思ってる』

 何とは言わず、俺は肯定した。そしてもう一度再生されるそれを、まるで初めて見るモノのように、熱心に見る彼女の横顔を見る。
以下略 AAS



58: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/17(土) 18:11:25.03 ID:9YnfOZCp0
□ ―― □ ―― □


「……なんでそこまで、必死なの。私くらいの人なんてどこにでもいるじゃん」

以下略 AAS



59: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/17(土) 18:11:59.08 ID:9YnfOZCp0
「“アイドル”って、何なの」

 きっとそれは、彼女が持つ疑念の根底となるものなのだろう。それはさっきの、なぜこんなにも必死なのかという問いかけに答えるものでもあるのかもしれない。

 ゆっくりと俺は目を閉じる。“アイドル”とは何か。その自問自答は何度でもやってきたことだった。それに、自分なりの答えはある。ただ、明確に言葉にはしてこなかった。
以下略 AAS



60: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/17(土) 18:12:31.14 ID:9YnfOZCp0
『クラスの人気者の面白くもない馬鹿話に笑ったふりをするばかりで、なんのために生きてんだろうって思うぐらいで。流されるまま生きるだけの存在』

 その言葉に微か、彼女が目の前で身じろぐ。ああ……そうだよね。君も、そうなんだよね。交番で彼女の目の奥に感じた既視感の正体が今ならわかる。

 それはきっと、漠然とした将来への不安と、熱意を向ける先のないことへの焦燥。つまらない日常をただ流されるだけの日々に、このままでいいはずがないと思っていても……何をすればいいのかわからない無間地獄のそれ。
以下略 AAS



61: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/17(土) 18:13:01.45 ID:9YnfOZCp0
『――ああ、すげえなって。俺はあんな人にはなれないけれども、でも“憧れるな”って』

 その時から俺の中のすべてが変わった。漠然と農家を継ぐんだろうというよくわからない将来像しかなかったのに、“アイドル”に携わる仕事がしたいと思った。そんなことは初めてで、あまりの熱中ぶりに親父やお袋に随分迷惑を掛けた。

 そして見つけた。“アイドル”を世に送り出す仕事を。プロデューサーと呼ばれる存在になりたいと心底思った。
以下略 AAS



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