55: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/17(土) 18:10:03.29 ID:9YnfOZCp0
「それにしても、意外と普通なんだね、お客さんって。急に“アイドル”とか言い出すからちょっとヤバい人なんじゃないかって思ってたけど」
「あはは……」
その評価に苦笑することしか俺はできなかった。超ごもっとも。俺だってそう思うよ。ただちょっとだけ、お客さんと呼んでくれたことにはガッツポーズをしたい気分だ、なんて思いながら言葉を返す。
『恥ずかしながら、それが俺の“夢”なんです』
「えっ……“アイドル”になるのが?」
頭大丈夫? みたいな表情で見られた。ちがう、そうじゃない。
『いやいやいや、俺が“アイドル”とか、世紀末ってレベルじゃないでしょ……。その、なんというか、プロデューサー――“アイドル”を生み出す人になりたいんだ』
「……生み出す人?」
ピンと来ていない様子で彼女は言った。そうだろうと思う。俺だって何も知らなければそう思うに違いない。
少しの間唸りながら、どう説明すればいいんだろうなと思っていたが、ふと手を見れば型落ちのケータイが一つ。
『そうだ、ちょっと待ってください』
画面に表示されていたアネモネの写真を閉じて、少し操作をする。ほとんど写真なんて撮らないから“それ”を呼び出すのはさほど時間がかからなかった。
ほどなくして画面に映ったのは、もう幾度となく見返したあの動画だった。流れ始める雑音に紛れた、音楽と歌声へ怪訝な顔を向ける彼女へとそれを渡す。
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