22: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/08(木) 18:57:31.89 ID:caute9RW0
□ ―― □ ―― □
23:名無しNIPPER[sage]
2019/08/08(木) 18:58:07.48 ID:caute9RW0
『……消せねえ。消せねえよ』
俺はまた嘆息した。もちろん、この画像を使ってどうのこうのなんてするつもりは全くない。そんな気持ちは微塵もないのだ。
それでも名状しがたい罪悪感が存在する。そしてその罪悪感があってなお、消したくないという俺の身勝手が俺の自己嫌悪を加速させる。いっそのこと、ケータイを見つけてくれたのが彼女でなければ。そんな失礼な事さえ思い、さらに自己嫌悪。
24: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/08(木) 18:59:01.76 ID:caute9RW0
(……分かってる、そんなことはないんだって)
そうとも、きっと彼女とはもう二度と逢うことはない。この巨大な都市の中で、ほんの一瞬だけ交差した縁。ただそれだけの事。
それでもやっぱり、聞かずにはいられないんだ。自分の何もかも一切合切を投げ捨てたっていい。こんな”持たざる者”の持てる限りを、あの少女に賭けてみたい。
25: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/08(木) 18:59:53.99 ID:caute9RW0
『そうだ、一応報告しに行った方がいいかなあ。うん、そうだ、そうしよう。俺は報告のために写真を撮った。そういうことだ』
完全に詭弁だ。詭弁だけど、自分でもこの上なくヤバイと思っている自分を落ち着けるにはこういう詭弁も必要だった。そうでもしなければ本当にどうにかなってしまいそうだった。
そうして今度は、普段着ほどラフではないけれどスーツほど堅苦しくない、外行きの私服に着替える。
26: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/08(木) 19:00:52.88 ID:caute9RW0
□ ―― □ ―― □
なんだよ、これ。
27: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/08(木) 19:01:50.22 ID:caute9RW0
『これは、流石に。堪えるなあ……』
がっくりと肩を落とし、壁にもたれ掛かれば座り込んで、俺は吐くように独語した。
どういう理由かはさっぱりわからない。借金がかさんでの夜逃げか、それとも倒産か。ただ少なくとも、ここからいなくなったのはここ数日の話じゃなさそうだった。少なくとも二週間、あるいは一か月くらいは前の事だろう。
28: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/08(木) 19:03:42.48 ID:caute9RW0
『あぁ、どうするかなあ、ほんと。俺もなあ、これ、完全に手詰まりだよねえ』
こんな状況下でもポジティブシンキングが出来るほどたくましくはないわけで。もっとも、ポジティブに考えたところで何かが変わるはずもない。
このインディーズレーベルはある意味、俺にとっての命綱だと思っていた。最後の最後、本当にどうしようもない時の駆け込み寺なんだって。これはそんな失礼なことを思っていた報いなのかもしれない。
29: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/08(木) 19:04:46.97 ID:caute9RW0
(……レーベルの人? いや、今更こんなところに用はないよね)
心が折られかかっている俺はそんな風に考え、特に気にすることもなかった。いっそ、誰であろうと無視をしよう。そう思った。
――けれど、それは許されなかった。
30: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/08(木) 19:05:52.47 ID:caute9RW0
「一月前ほどまで、ここにあったインディーズレーベルの関係者かね?」
『……いいえ、そうありたいと思っていた人間ですけど。それが?』
憮然とした態度をとってしまったことに一瞬、しまった、と考える。だがどうにでもなれという気持ちのほうが勝って。反抗的な視線で彼を見据えた。
31: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/08(木) 19:06:20.85 ID:caute9RW0
『……もしかすると、意味があるかもしれないじゃないですか』
言ってから意味などないと思った。こんな子供の駄々でしかない言葉を取りあう人なんているはずがない。
「そうか、では話してみようか」
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