22: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/08(木) 18:57:31.89 ID:caute9RW0
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『……なーにが“いいことは起こった”だよ。もう、最低だな……』
絶賛自己嫌悪の最中だった。片手にケータイを握りながらアパートの自室で倒れ伏し、かれこれ二時間になる。
そう、俺の手元にはケータイが戻ってきた。あの思い出の動画が帰ってきてくれた。普通ならその足で新式とはいかなくとも、まあ前世代型くらいのスマートフォンを買いに行くのが筋だ。
だがそんなことをする気力は俺になかった。理由は握るケータイの画面。そこに写っているのは、無意識に撮ってしまった一枚の画像。
画像は、今にも雑踏の中に消えゆこうとしている一人の少女の背中が映し出されていた。俺はそれを見て、また一つ嘆息する。
『……ははは、とうとう犯罪者になっちまった』
まさかこの歳で前科が付くなんて。いやまだ捕まっていないが。それでも年頃の少女の姿を無断で撮ったのだから、何だろう。肖像権? とかそういうのを侵害している。あるいは盗撮か。そうだ、盗撮だこれは。
盗撮。うん、かなりヤバい響き。そんな重大犯罪の証拠がこのケータイに残されている。早く消さなきゃ、なんて場違いな使命感に駆られていた。……その実は単なる証拠隠滅に過ぎないのだけれど。
だがかれこれ二時間、いまだに画像は残っている。表示されたままの画像。あの凛々しい後姿は画面から消えていない。
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