29: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/08(木) 19:04:46.97 ID:caute9RW0
(……レーベルの人? いや、今更こんなところに用はないよね)
心が折られかかっている俺はそんな風に考え、特に気にすることもなかった。いっそ、誰であろうと無視をしよう。そう思った。
――けれど、それは許されなかった。
「そこの君」
『……』
「聞こえなかったかね? そこの、座り込んでいる君だ」
『……?』
「聞こえているじゃあないか。そうだ、君以外におらんだろう」
その人は、俺に声を掛けてきた。ゆっくりと、声の主へと目を向ける。刹那、一瞬だけ体が震えた。誇張でも、なんでもなくて。本当に、びくり、と。
そこにいたのは三十後半か、あるいは四十に行くかってぐらいの中年男性。どこにでもいるおじさん……のはずだった。
だがその眼光は鋭く、まるで射貫く様なそれを俺に向けていた。それだけでも相当なのに、何だろうか。体からは覇気というか、精気というか。説明できない人間のエネルギーのようなものが迸っている……ように見えて。
その様は俺なんかとはどこか人間としての格が違う、まさしく命を燃やしながら人生を謳歌している、そういう何だろう、「英雄」とか、「豪傑」とか。
大袈裟だけれど、そういう言葉で形容するほかに何もないほどの威風を漂わせていた。そんな人が、じっと俺を見据えながら、再び問いを発する。
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