モバP「持たざる者と一人前」
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30: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/08(木) 19:05:52.47 ID:caute9RW0
「一月前ほどまで、ここにあったインディーズレーベルの関係者かね?」

『……いいえ、そうありたいと思っていた人間ですけど。それが?』

 憮然とした態度をとってしまったことに一瞬、しまった、と考える。だがどうにでもなれという気持ちのほうが勝って。反抗的な視線で彼を見据えた。

 ただ彼はそんな俺の視線と態度を意に介すこともなかったらしく、泰然とした様子で、

「ふむ、そうか。いや何、大したことではないのだがね。ここにあったインディーズレーベルに用件があったのだが、その様子だと君に聞いても意味はなさそうだね」

 そう言った。言葉尻に棘があるように感じた俺の口から、言葉が出た。

『用件……ですか』

「うむ、しかし君に話すことも意味はないだろう。何もかも諦めてしまった君には」

 刹那、心臓をつかまれた思いだった。まるで蛇ににらまれた蛙のように、その視線から目をそらすことができない。そしてその目を見て、もしかしてさっきの態度に怒っているのだろうか……そんな考えは一瞬で霧散した。

 この人は確かに怒っている。俺が“諦めていた”ことに怒っている。なんでそこまで怒るかは知らないけれど、でも確かに。

 だから俺は言った。そう言わないと“諦めていた”ことを認めることになりそうだったから。ちっぽけな“持てる限り”の意地を張って俺は言った。



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