嫉妬深い強欲デブでスケベで怒りに燃える怠け者の男「俺こそが唯一絶対の存在だ」
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1: ◆CItYBDS.l2[sage]
2019/07/29(月) 23:39:44.68 ID:8MZ+TPk10

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 その男は、強欲であった。
 
 欲しい物は、何でも手に入れた。男の本棚には、ありとあらゆるジャンルの漫画や小説が納められ。ショーケースの中には、精巧に作られたフィギュアが立ち並び。キッチンには世界中のありとあらゆる酒が揃えられていた。

 だが、それらを手にするにあたって男が金を払ったことは一度もない。そもそも、これだけのコレクションを揃えられるような財力は男には無かった。では、如何にして男はその強欲を満たしたのか。答えは簡単だ、それらは全て盗品であったのだ。

 男の仕事は、墓守であった。男は、一切の罪悪感を抱くことなく欲しいものは何でも盗ってくるような外道ではあるが、決してそれが男の仕事であるというわけではない。むしろ、男にとって盗むという行為はコレクター欲を満たすための手段に過ぎないのだ。であるから、男が墓守であるという一文は何の比喩的表現でもなく、事実のみを記したものなのである。

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2: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/07/29(月) 23:41:03.64 ID:8MZ+TPk10

 男は、とある墓園の管理を行政から任されていた。墓園を綺麗に保ち、新しい入居者があれば快く迎え入れる、それが男に託された唯一の責務であった。しかし、男にとってその仕事は至極退屈なものであった。園内の清掃は、一時間もあれば終わってしまい残った時間は小さい管理室で何をするでもなく過ごすしかない。いつしか時間を持て余した男は、自ら仕事を探すようになった。

 無縁仏の受入れ営業は、男が思いついた仕事のなかでも特に有意義なものであった。広大な墓園には、まだまだ未入居の土地が大量にあったため、男はそこを積極的に売り出すことにしたのだ。だが、たいていの亡骸は、その親族によって所縁ある墓へと埋葬されている。だから男は、営業のターゲットを孤独な者たちへと絞った。目論見は見事的中し、男は膨大な数の入居者を獲得し、それら入居者を墓園へ迎え入れ、埋葬し弔うという、永遠にも等しい時間のかかる新たな仕事を手に入れた。それは、男の本来の仕事とは大きくかけ離れたものであったが、誰も男を咎めることはなかった。


3: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/07/29(月) 23:41:30.57 ID:8MZ+TPk10

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 その男は、貪食の限りを尽くした。

以下略 AAS



4: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/07/29(月) 23:41:57.50 ID:8MZ+TPk10

 ある朝、男は墓園の中にある実家の墓に向かった。墓石には、祖父母と両親、それと若くして亡くなった兄の名が刻まれている。男は、手を合わせながら、いつか自身もこの墓に入るであろうということに思いを馳せた。決して、仲の良い家族とは言えなかったが、それでも在りし日の思い出は男に幸せを与えてくれる。再び、死んだ家族と相まみえ食卓に並ぶことが男の夢であった。

 祖母のサバずしは絶品だった、母の作るカレーは謎の苦みを有していた。父が連れて行ってくれた、こってりが売りのラーメン屋。祖父が買ってくれたソフトクリーム。兄と奪い合った、自生のアケビの種。思い出すだけで、男の腹はぐううと音をあげる。だが、どれも今の男には再現しようのないものばかりだ。だから男は、思い出の料理に思いを馳せ、せめてもの慰みに今日もお気に入りのあんこに手を付けるのだった。


5: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/07/29(月) 23:42:24.50 ID:8MZ+TPk10

?

 その男は、怠惰であった。

以下略 AAS



6: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/07/29(月) 23:42:52.33 ID:8MZ+TPk10

 男は、バイク屋へと押し入り使えそうなパーツを片っ端から盗んだ。そして時間をかけて、一つ一つの部品を丁寧に交換し、再びセルを回す。深夜の住宅街に、ギュンギュンとセルモーターの金切り声が轟く。ギュンギュンギュンギュンギュンギュンギュン……ドルンドルンドルンドドドドドド。息を吹き返した愛車に、男は狂喜乱舞し、まるでステップを刻むかのようにリズミカルにアクセルをひねり続けた。

 その2日後、男は北海道にいた。その広大な大地を、俺の愛車で踏破してやる、そう息巻いた。しかし、美しい景色に心振るわせるのも初めのうちだけで、男はしばらくするとバイクを走らせることにすら飽いてしまったのだ。更に2日後には、男は自宅へと戻り、更にその翌日には何事もなかったかのように職場へと向かうのであった。

以下略 AAS



7: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/07/29(月) 23:43:19.53 ID:8MZ+TPk10


?

 その男は、色欲に溺れた。
以下略 AAS



8: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/07/29(月) 23:43:46.99 ID:8MZ+TPk10

 だが、かつての思い出も男の無限に沸き上がる猛りを抑え込むことはできなかった。その日も、男はアダルトコーナーへと赴き今晩の供となる円盤を物色していた。棚の前に、仁王立ちで陣取り、棚に並べられたDVDのタイトルをじっくりと眺める。しかし、長年通い続けてきたせいか、DVDのタイトルを見るだけで、男はその内容を完全に脳内で再生することができた。男は、まだ出会っていないDVDを求めて別の棚へと移る。だが、どういうことだろうか。男がいくら探そうと、男が見たことのないAVは見つからなかった。

 それもそのはず。男は、既にその店に存在するすべてのAVを鑑賞しつくしてしまっていたのだ。男は、人目をはばからずにアダルトコーナーで声をあげて泣いた。本物の女だけでなく、AVまで俺を裏切って逝ってしまうのかと。男は、悲しみのあまり、他の店にAVを漁りに行くという通常の思考すらできなくなっていた。男の性欲は、AVの枯渇をきっかけに完全に決壊し、その全てが開け放たれた。男は、「俺だって本当は、AVなんかじゃなくて本物の女を抱きたいんだ」と店内に響き渡る声で泣き叫んだ。しかし、それに答える女性など居はしなかった。それどころか、老若男女を問わず泣きわめく男に寄り添うものは誰一人としていないであろう。

以下略 AAS



9: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/07/29(月) 23:44:14.40 ID:8MZ+TPk10
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 その男は、嫉妬深かった。

 最初の感染者は、南米の聞いたこともない国で見つかった。その感染者は、つい前日まで普段と変わらぬ生活を送っていたにもかかわらず、翌朝に自宅のベッドの中で冷たくなっているのを発見された。はじめは、単なる病死と思われていたが、その感染者に一切の病歴が無かったこと、また同時多発的に同様の死者が発見されたことで、その病気は世間に認知されることとなった。
以下略 AAS



10: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/07/29(月) 23:44:43.86 ID:8MZ+TPk10

 やがて、人々も研究者と同様に無駄なあがきをやめ、残された時間をより質の高いものにしようと考え、世界に人類史上初めて一切の争いのない穏やかな時間が流れることとなった。辛うじて機能していた各国政府は、ワクチン研究に託された膨大な予算を引き上げ、それらを広大な墓園の造成にまわし始めた。亡くなった感染者を放置することで、新たな病気が蔓延することを防ぐためだ。どうせ死ぬのなら、苦痛なく逝ける「眠り病」で。いつしか、人々は「眠り病」を救いとして受け入れるようになっていた。男の就職先も、そうやって作られた墓園の一つであった。

 男は、隣人が死に、友と連絡がとれなくなり、家族をみとっていく中で、先に逝くことができた全ての人々をひどく羨むようになっていた。大事な人たちを失う度に襲い来る悲しみが、そうさせたのだ。どうして、俺はまだ生きているのだ。どうして「眠り」の救いは、俺の下にやって来ないのかと。後に残されるほど、男は仲間を失う悲しみに苦しみ、それに呼応するかのように死者達への嫉妬に狂っていくのだった。


11: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/07/29(月) 23:45:10.76 ID:8MZ+TPk10
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 その男は、怒りに燃えていた。

 世界は、その男一人を残して滅んでしまった。どういうわけだか、その男にだけ「眠り病」の救いは訪れなかったのだ。幸いなことに、急激な人口減少のせいもあり、ソーラーパーネルによって半永久的に稼働し続ける政府の冷凍庫にはありとあらゆる物資が、今なお大量に残っており、生きていくうえで男が困ることはなかった。しかし、男は世界でたった一人の生き残りとして余生を過ごすことになってしまった。
以下略 AAS



12: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/07/29(月) 23:45:37.52 ID:8MZ+TPk10

 残念なことに、男の目論見は大きく外れてしまった。カラオケボックスに設置されていた通信カラオケは、たとえ発電機から電気を回しても正常に稼働させることができなかったのだ。男は、店に残されたカラオケ機器の説明書を斜め読みにしてみたがよく理解することができなかった。わかったことと言えば、電気を通すだけでは通信カラオケは使えないということ程度だ。しかし、男は諦めなかった。男には、既に予備のプランがあったのだ。通信カラオケがダメなら、LDカラオケだ。

 男の父は、とにかく新しいものが好きだった。まだパソコンが一般家庭に普及していないころに、何の用途も考えずパソコンを買って母に怒られたり、ベータや3DOといったメーカー戦争の敗北者たちも軒並み家の棚に揃えられていた。LDカラオケデッキも、そんな父の最新機器収集癖の遺産のひとつであった。近所の迷惑になると、当時はあまり使わなかったものだが、世界が滅びた今、誰に気兼ねすることない。問題があるとすれば、実家に置いてあるLDの収録曲は父の趣味の演歌ばかりであったということぐらいだった。

以下略 AAS



13: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/07/29(月) 23:46:06.59 ID:8MZ+TPk10

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 その男は、ひどく傲慢であった。

以下略 AAS



14: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/07/29(月) 23:46:33.55 ID:8MZ+TPk10

 そして、男は考えた。俺は、この地球上の唯一絶対の存在として何をすべきかと。だが、答えがでるまで、そう時間はかからなかった。平家が滅んだ後の琵琶法師達の活躍をヒントに、男は、人類栄枯盛衰の伝道師となることを決意した。この先、誰に伝えることになるかはわからない。それでもなお男はそうせざるにはいられなかった。

 男は次に、如何にして人類のあり様を伝えようかと悩んだ。何らかのメッセージ性が籠ったモニュメントの作成や、人類史の編纂、もしくは平家物語に倣って歌を歌いあげるか。様々な手法を考えては見るものの、世界で最も賢い男の知力をもってしても、それらを為すには困難であるように思われた。そうして、最終的に辿り着いた答えは、らしくしていこうというものであった。

以下略 AAS



15: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/07/29(月) 23:47:00.47 ID:8MZ+TPk10
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 その日、男は定年を迎えるに至った。
 
 男は、墓園に残されていた最後の墓に、名も知らぬ誰かの骨を納め、丁重に弔った。男の管理する墓園に、もはや空き室はなくなったのだ。男は、あまりの達成感にしばらく墓の前にうずくまり、声も出せずに静かに泣いた。
以下略 AAS



16: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/07/29(月) 23:47:27.85 ID:8MZ+TPk10

 男は、最後の力を振り絞り穴を掘った。墓園の片隅にある男の姓が刻まれた墓、そう男の家族たちが眠るの墓の前にだ。男は、息をぜえぜえと吐きながら、普通の大人であれば2,3人は収まるであろうだけの広さを掘り上げた。そう、その穴は、男の暴食の産物である巨躯を納めるに足る墓穴であったのだ。

 男は、穴の中に布団やクッションを敷き詰め、周りには長年愛でてきたコレクションを添え、遂には床についた。なに、万が一、目覚めれば、また仕事をすればいいさ、もし寝坊しても通勤時間を考慮しなくていいから楽だ。そんな不遜なことを考えているうちに、男はうとうとと睡魔に襲われ、いつのまにか眠りに落ちていた。

以下略 AAS



17:名無しNIPPER[sage]
2019/07/31(水) 17:20:55.40 ID:k++Udz9uO

なんか分からんが少し切なくなった


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