82:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 11:38:46.26 ID:YWfCY9A20
「サーヤ……」
その背中を、カスミはいつも歯痒い思いで見送っていた。どうしたら沙綾は元気を出してくれるのか……考えても分からないから、とにかくたくさん声をかけようと思っていたけど、そうする度に彼女は無理な笑顔を浮かべる。
83:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 11:39:52.85 ID:YWfCY9A20
やまぶきベーカリーの仕事は、パンを陳列して、レジに立ってお客さんの相手をして……と、ヤマブキパンでのものと変わりなかった。むしろ、パンはほとんど父親が焼くし、小さな弟と妹も手伝ってくれるから、あちらにいた時よりもやることは少ない。
ただ、沙綾にとって問題があるのは常連客の相手だった。
84:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 11:40:39.15 ID:YWfCY9A20
「無理しちゃダメだよ〜。あたしみたいに授業中も眠るくらいじゃないとー」
「……そう、だね」
85:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 11:41:19.49 ID:YWfCY9A20
「おねがいしま〜す」
「はい、承ります」
86:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 11:42:12.01 ID:YWfCY9A20
ここで働いている間なら、入れ替わったこととか、心配してくれるみんなのこととか、そういうことを頭の隅に放って置けたのに。身体を動かしているだけで、何も考えずにいられたのに。なのに、また私は心配されて、こうも打ちのめされる。自分の影が大きくなって、どんどんその暗闇に飲み込まれていく。ああ、なんて嫌な人間なんだろう、私は。
頭の中にどうしようもなく重たいものが渦巻く。それが大きな声で喚き散らして暴れまわるから、頭痛と眩暈がしてきた。胸の中にはどろりとした、嫌な熱を持つ塊が引っ付いて離れない。身体中が熱いのに、寒気がしてやけに喉が渇く。
87:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 11:43:42.26 ID:YWfCY9A20
気が付くと、沙綾は自室のベッドで横になっていた。薄ぼんやりとした視界に茜色の陽光が見えて、それから傍らに視界を移すと、ベッドサイドに椅子を持ってきて、そこに腰かける母親がいた。
「38.5℃だって。完全に風邪引いてるわね」
88:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 11:44:35.52 ID:YWfCY9A20
「そう、よかった。もう、倒れるまで黙ってるなんて……誰に似たのかしらね」
「……たぶん、おかあさん」
89:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 11:45:12.66 ID:YWfCY9A20
「明日はお休みね。学校には私から連絡しておくから」
「うん……」
90:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 11:46:25.19 ID:YWfCY9A20
◆
その文字だけは見間違えるはずがなかった。
91:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 11:46:54.73 ID:YWfCY9A20
――あのね、今、さーやが……さーやじゃない方のさーやがね、すごく落ち込んでて……いつも俯いてて、すごく難しい顔してて、「大丈夫?」って聞いても、辛そうな顔で「大丈夫」って言ってて……全然大丈夫じゃないのに、何も話してくれないの。
でも、私も、有咲も、りみりんも、おたえも、どうしたらいいのか分からなくて……さーやみたいに接すればいいのかなって思うけど、でもさーやはさーやで、さーやはさーやじゃないから、それも違うって思って……放っておけないけど、どうすれば元気になってくれるか分からなくって……
92:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 11:48:00.84 ID:YWfCY9A20
メッセージを最後まで読み終わって、沙綾は小さく息を吐き出した。そして胸中にふたつの思いが浮かぶ。
ああ、やっぱりもうひとりの私は悩んでいたんだ。その悩みも、きっと私が思った通りのものなんだろう……というのがひとつ。
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