166:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:42:40.91 ID:YWfCY9A20
「どうしたの?」
「呼び方がまた戻ったなって思って」
167:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:43:43.53 ID:YWfCY9A20
この奇妙な感覚はなんて言葉にすればいいんだろうな。そんな思いを抱えながら、沙綾は久方ぶりの見慣れた通学路を歩いていた。
目に付く街並みは生まれてからずっと一緒に過ごしてきたもの。それに比べれば、この街を離れたひと月半なんていう期間はとても短いものだ。だけど目に映る全部が懐かしくて、秋と冬の境目の肌寒い風が心地よくて、世界が愛しくて優しくて、泣いちゃいそうなほど眩しい。
168:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:44:25.57 ID:YWfCY9A20
「おはよう」
「……うん。おはよう、りみりん」
169:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:45:01.04 ID:YWfCY9A20
入れ替わっている間にもずっと学校には行っていた。だというのに、沙綾は夏休み明けのような気持ちで教室の敷居をまたいで、自分の席に座っていた。
窓からの陽射しが明るい、空席がある方が珍しい教室。その中に自分もいることがまだ夢を見ているみたいで、全然実感が湧かない。
170:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:45:57.91 ID:YWfCY9A20
「おはよ、サーヤ!」
「おはよー。やっぱり月にはうさぎがいるよね」
171:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:47:08.52 ID:YWfCY9A20
もうひとりの自分と入れ替わったことはもちろん大変だったし、挫けそうになったこともあった。
だけどそれらが、この手の中に偶然の振りして居座る宝物の大切さを改めて教えてくれた。気付かせてくれた。
172:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:47:47.03 ID:YWfCY9A20
『――もうひとりの私へ。
あなたがこの手紙を読んでいるということは、私はもうこの世界にいないのでしょう……なーんて、一回書いてみたかったんだよね。
173:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:48:41.86 ID:YWfCY9A20
伝えたいことがたくさんあって、だけどこの夜を超えたらきっともう二度とメッセージのやり取りが出来なくなっちゃう予感がしたから、とにかく思うことを書いてるんだけど……なかなか上手な言葉が見つからないや。
……こんなことを書いちゃうとさ、もしかしたらあなたは気を悪くしちゃうかもしれない。でも、正直な気持ちを書かせてください。
174:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:49:56.41 ID:YWfCY9A20
手紙を読み終わって、沙綾は小さく息を吐き出した。それから思うのは、ああ、やっぱり私たちは似た者同士だったな、ということ。やることなすことがこうも被るなんて……と思うとちょっとおかしくて、少しだけ笑った。
右の方から視線を感じて、そちらへ目を移す。すると、二つ隣の席のたえが、沙綾を見て不思議そうに首を傾げていた。
175:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:50:59.86 ID:YWfCY9A20
エピローグ:サアヤ
『――もうひとりの私へ。
189Res/213.78 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20