167:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:43:43.53 ID:YWfCY9A20
この奇妙な感覚はなんて言葉にすればいいんだろうな。そんな思いを抱えながら、沙綾は久方ぶりの見慣れた通学路を歩いていた。
目に付く街並みは生まれてからずっと一緒に過ごしてきたもの。それに比べれば、この街を離れたひと月半なんていう期間はとても短いものだ。だけど目に映る全部が懐かしくて、秋と冬の境目の肌寒い風が心地よくて、世界が愛しくて優しくて、泣いちゃいそうなほど眩しい。
どこかへ長期間の旅行へ行って、しばらく故郷から離れたらこんな気持ちになるのだろうか。それとも、将来この街を離れて生きることになれば、たまの帰省でこんな気持ちになるんだろうか。
どちらにせよ、花咲川の街から離れるような未来予想図を抱えたことは今まで一度もなかったから、沙綾にとってこの郷愁的な感傷がものすごく新鮮に感じられた。
そんな通学路を歩いていると、やがて花咲川に沿った道へ出る。春は川沿いに桜の花が咲き、舞い落ちる道だ。
「あ、サアヤちゃん」
今は遠い春の景色を脳裏に思い描きながら歩いていると、後ろから声をかけられた。足を止めて振り返ると、そこにはりみの姿があった。
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