140:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:21:46.43 ID:YWfCY9A20
みんなと別れて、ライオン丸くんと言葉を交わした(気がした)帰り道。その道すがら、頭の隅ではずっとそのことを考えていた。だけど、いざこうして母の姿を目前にすると、何にも言葉が出てこない。
言わなければいけないことは、感謝とか、謝罪とか……別れの言葉とか、だ。
141:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:22:23.67 ID:YWfCY9A20
「どうしたの、急に?」
「……ううん、言ってみたかった……だけ」
142:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:23:12.90 ID:YWfCY9A20
正直なことを言ってしまえば、して欲しいことはたくさんある。二年前に母が他界してから、その温もりにもう一度触れられたなら……と考えたことは、数えきれない。
だけど、やっぱりこの温もりは私のものじゃない。私じゃない方の沙綾のものだ。それを一度でも奪おうと思ってしまった私に、わがままを言う権利なんてない。
143:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:23:59.78 ID:YWfCY9A20
本当に些細なことだけど、おままごとみたいなことだったけど、初めてお店の手伝いをした時のこと。今よりもちょっと綺麗なヤマブキパンで、今よりもヘンテコな名前のパンが少ない売り場に、焼き上がったばかりのパンを陳列したこと。あの時も優しい声と笑顔があって、そして温かくて大きな手が私の髪を撫でてくれた。
最後にこうしてもらったのっていつだったっけな。お母さんが入院する前かな。ああ、きっとそうだ。中学生にもなって、こんな風に頭を撫でてもらうだなんてことはないだろう。だからかな。気が付いたらお母さんの手がこんなに小さく感じられて、でも、やっぱり温かくて、すごく心地よくて……懐かしくて泣いちゃいそうだ。
144:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:25:09.28 ID:YWfCY9A20
10
気が付くと彼女は電車の長椅子に座っていた。
145:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:25:50.16 ID:YWfCY9A20
「初めまして……じゃないか」
しばらく無言で見つめ合ってから、どちらかともなく声を出す。その声はがらんとした車内に侘しく反響した。
146:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:26:30.69 ID:YWfCY9A20
「……ごめんなさい」
ガタンゴトン。何度目かのその音が過ぎると、沙綾は――サアヤは口を開いた。
147:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:27:21.12 ID:YWfCY9A20
無言の車内に、レールの継ぎ目を超える音。しばらくすると、それに紛れてバラバラという音が聞こえてきた。
ふたりがお互いの背後の白い光が射しこむ車窓に目をやると、そこには雨粒が当たって弾けていた。相変わらず外の様子は真っ白でうかがえないけれど、あまり天気が良くないようだ。
148:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:28:42.76 ID:YWfCY9A20
「……あなたって、本当にすごいと思う」
さあやがぽつりと声に出す。
149:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:29:38.49 ID:YWfCY9A20
「不安で不安で、きっと……耐えられなかった。私って、案外打たれ弱いんだなって思った」
「そっか……」
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