142:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:23:12.90 ID:YWfCY9A20
正直なことを言ってしまえば、して欲しいことはたくさんある。二年前に母が他界してから、その温もりにもう一度触れられたなら……と考えたことは、数えきれない。
だけど、やっぱりこの温もりは私のものじゃない。私じゃない方の沙綾のものだ。それを一度でも奪おうと思ってしまった私に、わがままを言う権利なんてない。
「もう、またそうやって遠慮して……本当に誰に似たのかしらね……」
そう言って、呆れたような、でも優しさに満ち溢れた笑顔が浮かぶ。それを見てしまうと、がんじがらめになっていた心がほぐされてしまう。沙綾も少しだけ素直になってしまう。
「……絶対にお母さんだってば」
「案外自分のことって見えないものねぇ」
「うん……そう思う」
それから、少し大きく息を吸う。そして、胸中でもうひとりの自分に対して「少しの間だけゴメンね」と謝って、沙綾は声を出す。
「ねぇ、お母さん」
「なぁに?」
「……頭、撫でてくれない……?」
「それくらい、いつだってするわよ」
その言葉のあとに、母の温かな手が沙綾の頭にそっと乗る。それから、ゆっくり、ゆったりとその手が髪を撫でた。
沙綾は目を瞑って、ただされるがままになる。脳裏には、もうとっくのとうにセピア色になってしまった、遠い思い出が蘇る。
189Res/213.78 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20