149:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 12:29:38.49 ID:YWfCY9A20
「不安で不安で、きっと……耐えられなかった。私って、案外打たれ弱いんだなって思った」
「そっか……」
それを聞いて、サアヤは一度だけ俯いた。それから、再びさあやの顔をまっすぐに見据えて、言葉を返す。
「……やっぱりあなたってさ、とっても優しいね」
「そんなこと……」
「あるよ。絶対にある」
サアヤは強く頷いて見せる。自分の姿でそんなことをされてしまうと、さあやもさあやで返す言葉が見つからなくなってしまった。その姿に向けて、サアヤは言葉を続ける。
「今までよりも大変な環境に投げ出されたって、あなたは泣き言のひとつも言わなかったでしょ? 私なんて、ずっと、ずっと……逃げ続けてたのに。弱い自分と向き合うことが出来なかったのに」
胸中に浮かぶのは、自分の弱い部分を見つめられず、ただ目を逸らし続けていた日々のこと。自分を気遣ってくれる人たちを、優しさと温もりを与えてくれる人たちを見ないようにして、逃げていただけの日々のこと。
あの時だって、もうひとりの私は大変な状況にいたんだ。それなのに、自分のことよりも私のことを心配し続けてくれていた。元の世界へ帰る手立てを探し続けてくれていた。
きっと、香澄に歌を送るように言ってくれたのももうひとりの自分だ。その行動がなければ、今でも私は暗澹たる気持ちを抱えて、逃げ続けていただろう。
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