水本ゆかり「維納に奏でる」
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16: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:32:45.80 ID:cgXM4cARO
「グリュースゴット、ゆかり」

 オーストリア語というものはなく、母国語はドイツ語だ。しかしグーテンタークという挨拶はあまり使わず、グリュースゴットが主流らしい。
元々はカトリック教の「汝に神のご加護がありますように」といった意味だとか。グーテンタークが通じないわけではないけども、カトリック教徒の多いオーストリアではこっちの方が一般的に使われるのだ。

以下略 AAS



17: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:33:54.74 ID:cgXM4cARO
『無事ウィーンに着いたんですね』


「ええ、お陰様で」

以下略 AAS



18: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:35:16.54 ID:cgXM4cARO
「唇にお髭ができていますよ?」

「えっ? あぁ、泡のことね」

 舌で上唇についた泡を舐める。三分の一くらい飲んだ後のグラスには泡の輪が出来ていた。
以下略 AAS



19: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:36:28.19 ID:cgXM4cARO
「間違ってもデレぽにあげちゃダメだぞ?」

 一応オーストリア自体は16歳から飲酒が可能だが、厄介なことになるのは避けるが勝ちだ。

「分かっています! 有香ちゃんたちに見せてあげようと思って」
以下略 AAS



20: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:36:54.11 ID:cgXM4cARO
 一滴程度のビールすら受け付けなかったあの頃を思い出す。生涯分かり合えることがないだろうと思っていた苦い水が美味しいと思えるようになったのはいつの頃だったか。
多分スーツを着て慣れないネクタイを結んで社会人と呼ばれるようになったあたりだと思う。

「私も美味しく飲めるでしょうか?」

以下略 AAS



21: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:39:35.80 ID:cgXM4cARO
 パカラ、パカラ。蹄を鳴らしながら白馬は街中を我が物顔で練り歩く。通常の車よりも高い目線になる馬車はビルの二階の窓くらいの高さがあり、ちょっとした王様気分が味わえていた。

「カボチャの馬車ならシンデレラだったんだけどなぁ」

 オーストリアに来たのは撮影とライブのためだけど、それ以外は自由に観光する時間かある。レストランの食事を終えた俺たちはまず、ゆかりの希望でフィアカーで街中を巡ることにした。
以下略 AAS



22: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:41:10.85 ID:cgXM4cARO
「なんでも彼が書いたフルート協奏曲の一つは、以前作っていたオーボエ協奏曲を全音あげただけのもので、父親に宛てた手紙にはこう書かれていたみたいです」

 我慢のならない楽器だと。ゆかりは寂しそうに話す。

「たしかに当時のフルート今のそれとは違って、発展途上の楽器。文字通りの木管楽器で音程も不安定なものだったそうです。だけど私は思うんです。本当はフルートを愛していたんだと」
以下略 AAS



23: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:42:40.37 ID:cgXM4cARO
 馬車に乗りながら室内音楽を楽しむという贅沢をしているうちに、フィアカーははじめのペーター教会前に到着していた。

「アリガト、ゴザイマー」

 カタコトでも日本語で話してくれるのは嬉しかった。少し多めに御者さんにチップを渡して俺たちは教会の中に入った。外から見る以上に開放感があり、
以下略 AAS



24: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:43:56.28 ID:cgXM4cARO
「コンサート、やるみたいですよ?」

「えっ?」

 どうやらここではパイプオルガンによるコンサートが毎日のように開かれているらしい。オルガンの前に立つ少女が一礼をし、弾き始めると祭壇の中に重厚な音が広がり渡る。……ん? 少女?
以下略 AAS



25: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:45:28.09 ID:cgXM4cARO
「ダンケシェーン!」

 30分ほどのオルガンコンサートは万雷の拍手の中、幕を閉じた。コンサート自体は無料らしいがオルガンの維持やオルガニストへの寄付は行われているらしい。良いものを聞かせてもらったと財布から10ユーロを寄付して講堂から出ようとしたその時だった。

「待ってくださーい!」
以下略 AAS



26: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:46:32.09 ID:cgXM4cARO
「まぁ……」

 情緒たっぷりに奏でられるカルメンの間奏曲は耳に心地よく、俺たちだけでなく道行く人たちの視線も集め始めた。シンプルで誰もが一度は聞いたことがある親しみやすいメロディだが、
それ故にごまかしが一切効かず奏者の技量が試される。正直なところ、フルートを専門にして育って来たゆかりに比べるとフルート奏者としての技術や表現は及ばずとも、一人の音楽家としてみてしまえば日本で活躍するプロの音楽家達にも負けていない。

以下略 AAS



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