21:名無しNIPPER[saga]
2019/02/20(水) 21:27:22.52 ID:vutjDZzWo
対してステージの左端―――私からはトライアドプリムスの神谷奈緒に隠れてほとんど見えない―――私の位置から一番遠くにいたのが長富蓮実だった。
どうやらあちらは緊張が勝っているらしい。柔らかな笑顔こそ保っているものの、体は微動だにしていない。
しかし写真でみた時の古めかしく懐かしいオーラは実際に見るとひとしおで、私は年甲斐もなくドキドキしてしまっていた。
22:名無しNIPPER[saga]
2019/02/20(水) 21:29:35.49 ID:vutjDZzWo
──────
“では皆さん、名残惜しいのですが……そろそろお時間ということで、今回の販促イベントはこれにて終了とさせていただきます”
23:名無しNIPPER[saga]
2019/02/20(水) 21:31:41.53 ID:vutjDZzWo
「あの……」
「あっ、すみません。 握手会の列は向こうが最後尾で……」
「いえ。違うんです、その……脇にいた2人とは……握手はできないのでしょうか」
24:名無しNIPPER[saga]
2019/02/20(水) 21:33:09.98 ID:vutjDZzWo
「長富の担当の者です」
「……はい」
「申し訳ないのですが、今回はトライアドプリムスのイベントでして。 メンバーの3人だけが握手会の対象です」
25:名無しNIPPER[saga]
2019/02/20(水) 21:34:27.26 ID:vutjDZzWo
「ツイッターで彼女のことを知って……昔ながらの女の子で今時珍しいなと、興味を抱いたもので……それだけなのです」
「お気持ちはありがたくいただきます。それでも、今日のところは会わせて差し上げることはできません。ご了承いただきたい」
気恥ずかしさもあったが、マネージャーが私より歳上に見えたのもあり、気づけば正直に話してしまった。
26:名無しNIPPER[saga]
2019/02/20(水) 21:36:37.68 ID:vutjDZzWo
――――――
「あなたが思いつきで突拍子もなくあんな事をするなど予想してもいませんでした」
「……私もだ」
27:名無しNIPPER[saga]
2019/02/20(水) 21:39:34.56 ID:vutjDZzWo
けれども一つだけ言えるのは、たった一目見ただけの長富蓮実という存在は、
三十数年来の青春の興奮、その一片だけでも蘇らせてくれたということ。
主観に塗れた決め付けかもしれないが、思い出がフラッシュバックする瞬間というものはそういう理屈を超越したものが作用しているのだろう。
28:名無しNIPPER[saga]
2019/02/20(水) 21:42:47.20 ID:vutjDZzWo
「ハスミンだって立派にイマドキの子ですよ。 それでもアイドルからしばらく離れていたあなたがファンになった───これだけで十分な成果でしょう」
本人が知らずとも、とワッキー氏が付け加えた折、ふと若いころを思い出してみた。
読まれたか分からない何通ものファンレターも、音響と親衛隊たちのコールにかき消されたであろうコンサートでの声援も、
29:名無しNIPPER[saga]
2019/02/20(水) 21:44:33.78 ID:vutjDZzWo
──────
ワッキー氏と軽い夕食を済ませたのち、宿へ向かうということで二人で秋葉原駅へ戻る。
30:名無しNIPPER[saga]
2019/02/20(水) 21:46:25.91 ID:vutjDZzWo
「では、私はこの辺で。 またお会いしましょうぞ!」
大げさにブンブンと手を振るワッキー氏に苦笑いすら浮かべながら、遠慮がちに手を振り返す。
彼は秋葉原駅の改札口を入ってすぐ、人ごみに紛れて見えなくなった。
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