1:名無しNIPPER[saga]
2019/02/20(水) 20:48:42.63 ID:vutjDZzWo
青春をアイドルに捧げた輝かしき80年代の思い出は、墓場まで大切にとっておこうと決めていた。
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2:名無しNIPPER[saga]
2019/02/20(水) 20:52:14.11 ID:vutjDZzWo
高校時代はアイドルたちと共に生きたと言って差し支えなかろう。
金などなく、レコードを買い集めたりコンサートを頻繁に見に行くなど満足に叶いはしなかったものの、
新聞のテレビ欄を毎日穴の開くまでチェックを重ね、彼女らが出演する番組は全てビデオテープに記録し、ラジオもことごとくカセットに録音してあった。
テレビで見る彼女らはまことに凜々しく、麗しく、見ている間は息も止まった。
3:名無しNIPPER[saga]
2019/02/20(水) 20:53:44.12 ID:vutjDZzWo
大学に入って多少金の融通が利くようになると、私はアルバイトで稼いだ金をほとんどコンサートの遠征費に費やした。
地方でのコンサートに行くと、現地での出会いというのも自然と増える。
何度も同じ場所で出くわせば、そのつもりがなくともお互いを認識し、やがて同志の盃を交わすようになるものだ。
4:名無しNIPPER[saga]
2019/02/20(水) 20:55:09.21 ID:vutjDZzWo
しかしそれが時間の流れというもの、時代の移り変わりというもの。
人間生きていれば、いくつかの大事にしたいものを天秤にかけて、どれと共に歩むか選ばなければいけないというものだ。
私は最終的に仕事と家族を選んだ。
5:名無しNIPPER[saga]
2019/02/20(水) 20:57:08.45 ID:vutjDZzWo
──────
ある日部下が持ち込んで来た芸能雑誌が、デスクの上に開き伏せられているのが目に入った。
最後にこういう類いに目を通したのは、何年前だろうか。
6:名無しNIPPER[saga]
2019/02/20(水) 20:58:16.45 ID:vutjDZzWo
「部長がこういうのお好きとは、知りませんでした」
「あ、いや、そういうわけではないんだが。たまには見ておかないと、娘とも話が合わんのでな」
なぜ私が部下の言葉に動揺しなければならないのか。
7:名無しNIPPER[saga]
2019/02/20(水) 20:59:33.38 ID:vutjDZzWo
「……部長?」
「すまない、もう少しだけ見せてくれないか」
今のはいったい何だ?
8:名無しNIPPER[saga]
2019/02/20(水) 21:00:31.34 ID:vutjDZzWo
「この子……」
「どの子ですか?」
私の目線を辿った部下が同じくその少女を見つけた。
9:名無しNIPPER[saga]
2019/02/20(水) 21:02:29.55 ID:vutjDZzWo
──────
帰宅後、食事と風呂もそぞろに私は自室へ閉じこもった。
奇妙に映ったかも知れないが、どうせ妻と娘のことだ、さして気にも留めていないだろう。
10:名無しNIPPER[saga]
2019/02/20(水) 21:04:37.85 ID:vutjDZzWo
パソコンの静かなファン音とかすかなコール音だけが自室に響く中、果たして電話はつながった。
『……もしもし?』
「……お久しぶりですな。覚えておられるだろうか」
11:名無しNIPPER[saga]
2019/02/20(水) 21:06:09.50 ID:vutjDZzWo
「あるアイドルの女の子なんだが……君なら知っているかなと思ってな」
『意外ですな、隊長殿はイマドキの子らには興味ないと思っておりましたが……』
「そうだったんだが、ちょっと気になったんだ」
12:名無しNIPPER[saga]
2019/02/20(水) 21:07:29.65 ID:vutjDZzWo
「Twitterでしたら、イベントなどに参加された方の呟きなども見られますのでもっと細かい情報を仕入れられますよ。
僕もやっておりますので、是非隊長殿も始めてみては?フォローして差し上げますぞ」
どうやらワッキー氏は私などよりよほど詳しいらしい。
13:名無しNIPPER[saga]
2019/02/20(水) 21:09:30.11 ID:vutjDZzWo
──────
ワッキー氏の協力もあって、私は長富蓮実についていくつか新しい情報を仕入れることができた。
あれからツイッターに登録し、投稿されている情報の欠片を広い集めて回ったのだ。
14:名無しNIPPER[saga]
2019/02/20(水) 21:11:14.61 ID:vutjDZzWo
『ではここで隊長殿に朗報があります』
「何かな?」
『先ほど発見した情報なのですが、実はハスミン、今度の―――』
「ハスミン?」
15:名無しNIPPER[saga]
2019/02/20(水) 21:13:22.63 ID:vutjDZzWo
『隊長殿も、せっかくですしハスミンに会いに行ってみましょうよ。 それに我々にも積もる話というものがありましょう』
「そういうものかな……」
ため息を漏らしながら後ろに体を反らして大きく伸ばした。
16:名無しNIPPER[saga]
2019/02/20(水) 21:16:18.19 ID:vutjDZzWo
──────
土曜日の13時5分前、電気街口の柱にもたれ掛かったまま私はワッキー氏の到着を待っていた。
秋葉原は移り変わりが激しすぎて、都内住みの私ですら何度来ても慣れない。
17:名無しNIPPER[saga]
2019/02/20(水) 21:18:36.93 ID:vutjDZzWo
──────
わざわざ早い時間に来て席取りに励む輩は我々だけだと思っていたが、そうでもなかった。
家電量販店のイベントスペースにたどり着いた頃にはすでに20人ほどが列をなしていた。
18:名無しNIPPER[saga]
2019/02/20(水) 21:20:27.90 ID:vutjDZzWo
「なるほど」
「この3人はさすがにご存知ですかな?」
「ああ、娘がファンらしい」
19:名無しNIPPER[saga]
2019/02/20(水) 21:22:08.53 ID:vutjDZzWo
「隊長殿、こっち!こっち!」
どうすればよいかも分からぬ私を、ワッキー氏が遠くから手招きしていた。
20:名無しNIPPER[saga]
2019/02/20(水) 21:25:04.13 ID:vutjDZzWo
──────
『……神谷さんはこの曲、歌ってみてどうでしたか? レコーディングの時の感想をお聞かせください』
『えっ、あ、あたし!? なんで! 何も聞いてないぞ!』
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