20:名無しNIPPER[saga]
2019/02/20(水) 21:25:04.13 ID:vutjDZzWo
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『……神谷さんはこの曲、歌ってみてどうでしたか? レコーディングの時の感想をお聞かせください』
『えっ、あ、あたし!? なんで! 何も聞いてないぞ!』
『奈緒、本番中』
『凛! こんなの段取りになかったじゃないか! 騙したな!!』
『早く喋ってよ〜』
『くそ、加蓮まで……!!』
コントのようなトークに会場も沸く。
何も知らない私でも、何となくメンバー内の関係性が察せられる。
テレビで見かけたときはクールな印象だった3人だが、よくよく考えれば娘と同年代、箸が転んでも笑い出す年頃だ。
存外に愉快なトリオなのかもしれない。
マイクを持った3人とは対照的に、両端の二人──長富蓮実と若林智香は、CDジャケットの画像を拡大した胴体ほどもある巨大なパネルを抱え、
一言も話さず、ニコニコと愛想を振りまいてはたまに観客へ手を振るのみであった。
彼女らもせっかくアイドルなのに体を隠して仕事をするなど勿体ないなと率直に思うが、それがこの世界の厳しさなのだろう。
アイドルの卵とはしばしばダイヤの原石とも表現されるが、少なくとも今日の二人は路傍の石であり、
主役たるトライアドプリムスよりも目立つことは決して許されないのだ。
自分達よりも遥かに出世した同世代の仲間を脇から黙って眺めるのはさぞ歯がゆいに違いない。
だがそれでも与えられた任務を全うし、笑顔を保たなければならない。少なくとも今日はそれが彼女らの仕事だから。
私は改めてステージの右端──自分の席の目の前に立っている方の脇役アイドル──若林智香に目をやった。
残念、と言えば目の前の若林智香にも、目をキラキラさせてその若林智香に小さく手を振っている隣のワッキー氏にも失礼になるだろうか。
彼女が快活で可愛らしいアイドルなのはその通りだった。
大きなパネルで顔以外のほとんどが隠れていても、緊張感とこの場を楽しんでいそうなワクワクの両方が、表情から読み取れる。
オレンジの長いポニーテールは観客へニコリと笑いかけるたび、嬉しそうにぴょこんと小さく跳ねていた。
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