87: ◆O3m5I24fJo[saga]
2018/11/16(金) 22:35:05.55 ID:6W5BK61q0
『ケイ素♪ ケイ素♪ 二酸化ケイ素♪』
彼女はケイ素を多く含む物質が大好きで、鉱物やガラス製品等を収集していた。
好きなものを見て笑う彼女の表情を眺める度、俺は幸福感を覚えたものだった。
88: ◆O3m5I24fJo[saga]
2018/11/16(金) 22:35:55.08 ID:6W5BK61q0
『このガラス、ヒスイを練り込んであるんだって!』
彼女はこの緑色のガラスで作られた皿やら花瓶やらを見て、思いっきりテンションを上げていた。
89: ◆O3m5I24fJo[saga]
2018/11/16(金) 22:36:31.48 ID:6W5BK61q0
彼女だけで旅行に行かせるのは心配だったから、俺も遥か北陸の地についていった。
ガラスの研究をしている施設だとか、大学の研究室だとかに彼女は顔を出した。
学んだ知識を窓ガラスに活かすのだと、楽しそうに話していた。
90: ◆O3m5I24fJo[saga]
2018/11/16(金) 22:41:40.51 ID:6W5BK61q0
「今日、彼女さんは一緒じゃないんですか? 珍しいですね」
ガラス細工屋の店員が俺に声をかけた。
91: ◆O3m5I24fJo[saga]
2018/11/16(金) 22:42:58.48 ID:6W5BK61q0
「あれ、これ……」
とても綺麗な指輪が台に置かれている。
ガラス細工の装飾が細やかに散りばめられていて、目を見張った。
92: ◆O3m5I24fJo[saga]
2018/11/16(金) 22:43:41.20 ID:6W5BK61q0
「これ、ください」
レジへ持っていくと、タグに書かれた値段よりもだいぶ安い額を請求された。
普段、この店はセールでもしない限りは値下げをすることはない。
93: ◆O3m5I24fJo[saga]
2018/11/16(金) 22:44:48.77 ID:6W5BK61q0
その後もフラフラして、スーパーで安い弁当を買って帰宅した。
「ただいま」と言ったところで、「おかえり」と言ってくれる人はいない。
94: ◆O3m5I24fJo[saga]
2018/11/16(金) 22:45:20.67 ID:6W5BK61q0
「少々事情があってね、物質世界に逃げてきたんだよ」
「事情って」
「普段、僕等は厳密なきまりを守って人間と契約している。だから罰せられることなんて滅多にないのだけれどね」
95: ◆O3m5I24fJo[saga]
2018/11/16(金) 22:46:11.36 ID:6W5BK61q0
「どうすれば君を助けられるんだ」
「契約しなきゃいけないな。そうだね……これ以上君から感情を吸い取ったら、君の精神も崩壊してしまうだろうし……となると、僕自身の感情エネルギーを活性化させるしかないかな」
「えっと……一発芸でもすればいいか?」
96: ◆O3m5I24fJo[saga]
2018/11/16(金) 22:46:55.59 ID:6W5BK61q0
「ふふ、嬉しいよ。今までたくさんの人の記憶を渡り歩いてきたけれど、直接作品に触れる機会は滅多にないからね。何百年ぶりだろう」
悪魔は穏やかな笑みを浮かべて映像に見入っている。
いつの間にか傷は治りつつあった。
97: ◆O3m5I24fJo[saga]
2018/11/16(金) 22:48:41.74 ID:6W5BK61q0
どうせ観るなら、音響にも少しは拘りたい。
ちなみにこのマンション、見た目はボロいが何故か防音だけはわりとしっかりしている。
流石に夜なのでウーハーまでは使えないが、大音量を出さない限りはスピーカーをつけるくらいでは問題にならないのだ。
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