【モバマス】クラリス「魔女・セイラム」
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53:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:23:59.29 ID:TXxgAIfuO
 ――私には姉がいました。

 その洗礼名をセイラムといいます。

 実姉ではなく、ただ先達としての存在であったことから、私が姉と思い慕っていた方です。彼女もまた私のことを、実の妹のように可愛がってくれていました。
以下略 AAS



54:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:24:36.01 ID:TXxgAIfuO
 私はクラリス。

 いまだ未熟な身で、きっと誓願を経てもなお、セイラム、貴女のように在ることは到底できないのでしょう。

 けれど、貴女が生きたこの場所を、貴女と同じく愛していたいと、心からそう願っています。
以下略 AAS



55:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:25:11.25 ID:TXxgAIfuO
###

 あれから、二年という月日が過ぎました。

 セイラムの脱離は教会の運営にきわめて大きな影響を残しました。収入の大きな部分を補っていた彼女がいなくなってしまったのですから、それも当然のこと。借り入れていた金額は日増しに大きくなり、返済は当然のように滞って――教会は物件として差し押さえられ、ついには使用を禁じられました。
以下略 AAS



56:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:25:53.98 ID:TXxgAIfuO
 青空の下、花の落ちて緑だけが美しいバラ園の中、私はCDプレイヤーの停止ボタンを押し込んで微笑みます。

「ふふ、素晴らしい合唱でしたね。きっと、神様にも届いたと思いますよ。今日はこれでおしまいにいたしましょう」

 聖歌隊の子供たちは、邪気のない顔で私に別れと再会の約束を告げ、帰途に着きます。その彼らに、次の日曜日もまたこの場所でと、そう伝えなければならないのがただただ辛い。
以下略 AAS



57:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:26:40.61 ID:TXxgAIfuO
 ふと、その私の頭上に影が差しました。

「――どうして悲しげなの?」

 不意のことでしたが、質問が私に向いていることは明らかでした。表情をあらためて、私は目に入った黒革のパンプスにこたえます。
以下略 AAS



58:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:27:46.91 ID:TXxgAIfuO
 きっと、あたたかな心を持つひとなのだろうと思いました。そうしてようやく、顔も見ずに話している無礼にはたと気付きます。

 取り急ぎ、立ち上がって――目を合わせるや茫然として、自らを忘れました。

「でも、間に合ってよかった」と言うその顔は、慈しむように微笑んでいました。
以下略 AAS



59:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:28:58.71 ID:TXxgAIfuO
申し訳ございません、>>58はミスです。以下に訂正を。


60:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:29:47.58 ID:TXxgAIfuO
 他人事であるはずなのに、その声は私の内情に優しく添うようでした。

 きっと、あたたかな心を持つひとなのだろうと思いました。そうしてようやく、顔も見ずに話している無礼にはたと気付きます。

 取り急ぎ、立ち上がって――目を合わせるや茫然として、自らを忘れました。
以下略 AAS



61:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:30:20.06 ID:TXxgAIfuO
「……セイラム?」

「うん。ひさしぶり」

「……本当に?」
以下略 AAS



62:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:31:51.68 ID:TXxgAIfuO
 伸ばしてあった髪は潔いくらいにばっさりと短くなり、黒衣であることは変わりませんでしたが、修道服ではなく、本来私たちと交わるはずのないビジネススーツを着込んでいました。

 それでも変わることはない彼女の本質が、そこに立っていたのです。

「クラリス」と、彼女が初めて私の洗礼名を呼びました。たったそれだけのことで、驚きと戸惑いも抑えて、嬉しい気持ちは溢れそうなほど。ですが、続いた言葉に気を引き締めました。
以下略 AAS



63:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:33:15.26 ID:TXxgAIfuO
 それから、彼女は私に一枚の名刺を差し出しました。そこには「セイラム」ではなく、彼女の俗名が綴られています。

 肩書きは、

「シンデレラガールズ・プロダクション、アイドル部門、プロデューサー……?」
以下略 AAS



64:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:34:23.34 ID:TXxgAIfuO
「いろいろあったんだ」と彼女は言いました。

 私たちの教会を去ってから、彼女は紹介された修道会に一旦は身を寄せたそうです。しかし、そこで日を過ごすごとに、愛した場所との違いが目に入る。自分の本来の居場所がここではないと思い知る。決別は早かったそうです。

 どうにかして帰りたかった。帰れないことだけは明らかだった。だったら、せめて外からでも力になろうと思った。
以下略 AAS



65:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:35:10.01 ID:TXxgAIfuO
「昨日やっと、プロデューサーとしてひとり立ちを認められてね。したらすぐ、担当するアイドルをスカウトするのが最初の仕事だって言われて。スパルタでしょ。まあ、それは都合よかったし別にいいんだけど」

 しばらくぶりの彼女との会話に、時間を忘れるようでした。なにものにも代えがたい喜びに浸っていたところ、ふと、気になる言葉に引っかかりました。

「……都合がいい?」
以下略 AAS



66:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:36:09.53 ID:TXxgAIfuO
 その質問は漠然としていて、すぐにこたえることはできませんでした。問いで返そうとする私を、しかし彼女の続く言葉が塞ぎます。

「あたしは、ひっどい間違いをしたよね。あたしがなんとかしなきゃって、ひとり思ってばっかりで、取り返しのつかないことして、結局余計に教会を追い込んだ」
「そんなことは……」
「それでも」
以下略 AAS



67:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:37:11.56 ID:TXxgAIfuO
「貴女の歌声を、活かしてみるつもりはない? あたしと一緒に……大切な場所を守ってくれるつもりは、もうないかな」

 一度は間違えた。だけど、だから、もう間違えない。間違えさせないから。

 呟きと共に、差し出された手。
以下略 AAS



68:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:37:45.93 ID:TXxgAIfuO
 神父様やほかのシスターたちに、相談はしました。しかし、ほとんどする必要もなかったと感じられるほど、彼らはすぐに私の背中を押してくれました。

「あいつめ。いま、そんなことになっているのか」

 怒ったように言う神父様でしたが、その表情は反して朗らかでした。
以下略 AAS



69:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:38:26.19 ID:TXxgAIfuO
 それから三日後、私は東京のオフィス街を訪れました。

 駅のホームに出ると、怒涛のような人波に圧倒されました。そんな中に、凛と背筋を伸ばして立つ姿はすぐに見つかります。

 彼女もまたこちらを見つけ、微笑みました。
以下略 AAS



70: ◆H4.9pPaHc.[saga]
2018/07/14(土) 18:42:20.17 ID:TXxgAIfuO
終わりです。
色々と初めてのことだったため、拙いところもあり申し訳ありません。
最後まで読んでいただいた方が、もしもいらっしゃるのなら、本当にありがとうございました。至上の感謝を申し上げます。


71:名無しNIPPER[sage]
2018/07/14(土) 18:49:49.14 ID:h0kBZKIDO


女プロデューサーは沢山いるが、クラリスさんを誘う例は初めてやな


以下略 AAS



72:名無しNIPPER[sage]
2018/07/14(土) 19:38:27.50 ID:IrIVSCkI0
RWBYのボスキャラがそんな名前だったような
まだ読んでないから感想ちょっと待って


73:名無しNIPPER[sage]
2018/07/19(木) 13:33:32.96 ID:7E+0rioC0
乙、良かった…!

タイトルが魔女裁判を髣髴させると思ったら、周り回って灰被り姫に魔法をかける魔女になったかと思うと胸熱



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