43:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:16:15.98 ID:TXxgAIfuO
神父様は椅子を倒す勢いで立ち上がり、吠えるように言いました。
「どんな事情があったにせよ、あいつが風俗店で働いていたという事実があって、それを顔の見えない何者かに知られてるんだぞ! ……もしも悪意の元に広まってしまったら、どうなると思う?」
それこそ、破門せざるを得なくなるかもしれない。
44:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:17:01.65 ID:TXxgAIfuO
「……信頼できる私の友人が、関東の方で修道会の代表を務めている」
少しののち、神父様が静かに言いました。
「そこへの、紹介状を書くつもりだ」
45:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:17:36.21 ID:TXxgAIfuO
セイラムは、愛した教会を去りました。
セイラムは淡々と、謝罪と、感謝と、離別の挨拶を口にしました。
私はすがるように、謝罪と、感謝だけを伝えました。
46:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:18:34.71 ID:TXxgAIfuO
日常は、たとえ大切なものが失われてしまったとしても、絶えず回ってゆきます。
回り回る世界の、欠け落ちた部分が身に触れるたびに、私は痛みにうずくまりそうになりました。
欠落したものがあまりにも大きく、多かったことを、日々の中でたびたびに思い知りました。食事のとき、祈りのとき、うたうとき、掃除のとき、ほかにも、数え切れないほど。
47:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:19:19.63 ID:TXxgAIfuO
夏の長い年でした。
八月も後半になりましたが、いまだ健在の暑気が寝起きから汗を滲ませます。
ひとり部屋となってしまった私室で、私は朝日の中に目を覚ましました。身体の芯に痛みを覚えましたが、気づかなかったふりをしました。
48:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:20:03.07 ID:TXxgAIfuO
――『ハッピー・バースデイ』
49:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:20:44.64 ID:TXxgAIfuO
その手書きの字の特徴に心臓が跳ねました。
いったいどうして。どうやって?
混乱する心中もそのままに、私は慎重にラッピングを解きました。包装紙の下には、メーカーのロゴも何も印字されていない、真っ白い箱。
50:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:21:49.95 ID:TXxgAIfuO
こぼれる涙につられるようにして、抑え込んでいた痛みと感情が溢れました。笑う余裕なんてもうなくなって、私はただひたすらに、悲しさと寂しさを彼女の寝台に吐き出しました。
居なくなってもなお、私は貴女にいただいてばかりでした。
数え切れない恩が胸に浮かぶごと、私の中の貴女の領域が大きくなる。やめてほしかった。潰れてしまいそうでした。募る彼女への想いが、そのまま彼女を失ったことへの痛みに置き代えられます。
51:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:22:16.61 ID:TXxgAIfuO
主よ。貴方の定めたセイラムの運命は、
本当に、正しかったのですか?
52:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 18:22:53.83 ID:TXxgAIfuO
私は、ブローチを胸元に付けました。手を添えると、安らぎを得られるように感じました。
鏡に映る私は、目元が赤くなっていました。それをからかい笑うようなひとは、もういません。
部屋を出ると、神父様が待っていました。
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