1: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/06/22(金) 00:54:37.62 ID:wWXdAL2J0
彼の人生の終末にエンドロールがあったら、私はどんなふうに書かれているんだろう。
SSWiki : ss.vip2ch.com
2: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/06/22(金) 01:13:16.37 ID:wWXdAL2J0
せめて名前だけでも、ちゃんと書いてあったら嬉しい。
3:名無しNIPPER[sage]
2018/06/22(金) 02:07:13.61 ID:Nh6uOD/Yo
もみやで
4: ◆u2ReYOnfZaUs
2018/06/22(金) 21:13:42.19 ID:wWXdAL2J0
大人びている。よく、そう言われる女子高校生だった。両親も、よくそう褒めた。
私はそれに喜んだり悲しんだり、深く考えたりしたくなかった。だって、“奏は大人びている”。そう言っている人達も、言葉の意味を考えたりしないのに、どうして私がいちいち頭や心をかき乱されないといけないのかしら。そうでしょう?
現実として、私は父親のお金で高校に通ったり映画を借りたりしている。母親にご飯をつくってもらったり、時々は髪を梳かしてもらったり、リップを選んでもらったりする。レイトショーにもこっそり行かなくちゃいけないし、ティーン向けの恋愛映画に無闇に心をかき乱されるのがいやで、遠ざけたりする。
5: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/06/22(金) 21:14:57.52 ID:wWXdAL2J0
そんなふうに、すっかり物憂げな顔をして街を歩くのが趣味になっていたとき、声をかけてくれたのがプロデューサーさんだった。
「君、ちょっといいかな」
本当に“ちょっと”ならかまわないわ。いつものナンパだと思って、返事をしたような気がする。彼はしばらく考え込んで、多分その間に“ちょっと”の時間は過ぎてしまったんだけど、私は彼の言葉を待った。
6: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/06/22(金) 21:15:45.41 ID:wWXdAL2J0
「君の人生をちょっとだけ、ぼくに預けてみないか」
渡された名刺には美城プロダクションと書かれていて、私は自分がスカウトされていることに気づいた。
「“ぼく”、本気?」
7: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/06/22(金) 21:16:57.89 ID:wWXdAL2J0
両親は話し合う余地もなく、賛成してくれた。いいよの一点張り。プロデューサーもその場にいたんだけど、ぽかんとしてた。
“両親の激しい反対に遭うも必死の説得により……”、そういうドラマを2人で描いていたから。
「なんだか物足りないわ」
8: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/06/22(金) 21:18:18.58 ID:wWXdAL2J0
デビューは成功して、お金もずいぶん稼いだけれど、私はずっとプロデューサーさんを困らせてばかりだった。
お仕事が、お仕事の方からやってくるようになっても私はプロデューサーさんに手加減をしなかった。
手のかからない、どうでもいい大人になんてなりなくたかったから。
ある日、私はいつものように彼に意地悪をした。
9: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/06/22(金) 21:18:56.20 ID:wWXdAL2J0
「キスしてもいい?」
ここまでしても、プロデューサーさんは無反応。
「こっちを向いてくれないと、首を斬り落としてでもキスするわ」
10: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/06/22(金) 21:19:43.15 ID:wWXdAL2J0
部屋から出るのもわずらわしくて、また話しかけるのも気後れで、私はパソコンのモニターを見た。
知らない女の子。銀色の髪で、切れ長の瞳。鼻が少しとがっていて、可愛いけれど、どこか狐みたいな子が映ってる。
「二股は嫌よ」
11: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/06/22(金) 21:20:34.97 ID:wWXdAL2J0
「奏のプロデューサーをやめるから」
この世界に私の思い通りにしていいものなんて、本当はないんだって。
「それは……奇妙ね」
12: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/06/22(金) 21:21:37.80 ID:wWXdAL2J0
「本気?」
彼は私の言葉を聞くのも煩わしそうに、うなずいた。
「常務が新しいユニットをつくるんだ」
13: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/06/22(金) 21:22:08.73 ID:wWXdAL2J0
「そうかな」
「そうよ」
プロデューサーさんは不貞腐れたような顔で私の方を見た。そして、常務から言われたことを教えてくれた。
14: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/06/22(金) 21:23:34.84 ID:wWXdAL2J0
「断れなかったの」
「断れたのかな」
「あなたは私のプロデューサーよ」
15: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/06/22(金) 21:24:03.75 ID:wWXdAL2J0
「奏はぼくよりずっと、大人だと思っていたんだけど」
彼はそう吐き捨てて、部屋から出ていった。
私は思わぬ反撃に立ち竦んでしまって、怒ることも、追いかけることもできなかった。
16: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/06/22(金) 21:51:52.59 ID:wWXdAL2J0
一週間頭を冷やしてから、プロデューサーさんに電話をかけた。
でも彼は出てくれなかった。
LINEもしてみたけれど、既読もつかない。
私はオフの日なのにプロダクションに行って、プロデューサーさんを探した。
17: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/06/22(金) 21:52:38.48 ID:wWXdAL2J0
「私のプロデューサーさんは?」
ろくな挨拶もせずに、私は常務に尋ねた。
常務は表情をかえずに、背筋が凍るような、ひやややかな声で言った。
18: ◆u2ReYOnfZaUs
2018/06/22(金) 21:57:46.69 ID:wWXdAL2J0
※17を訂正します
19: ◆u2ReYOnfZaUs
2018/06/22(金) 21:58:42.45 ID:wWXdAL2J0
「私のプロデューサーさんは?」
ろくな挨拶もせずに、私は常務に尋ねた。
常務は表情をかえずに、背筋が凍るような、ひややかな声で言った。
20: ◆u2ReYOnfZaUs
2018/06/22(金) 22:29:58.20 ID:wWXdAL2J0
「彼は辞表を提出しこのプロダクションを去った。
新しいプロデューサーは、プロジェクト加入が正式に決まり次第通知する」
「辞表? ユニット?
なんのことだか……」
21: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/06/22(金) 22:42:18.91 ID:wWXdAL2J0
常務はただ淡々と、事実を突きつけてくる。だから否定もできないし、反論もできない。
それでも私は反撃がしたくて、言い返した。
「私は、常務のつくるユニットには参加しません」
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