279: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/06/08(土) 22:28:45.89 ID:ABaWR+nR0
魔王も、千鳥足テレポートが使えるのか。だが何故、普通のテレポートではなく千鳥足テレポートを使ったのだろうか。そんな俺の疑問を察して、遊び人が間髪入れずに声をかけてくる。
「普通のテレポートじゃ、私に逃げ先を悟られると思ったんでしょ! 勇者! 私たちも千鳥足テレポートで追うよ!」
280: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/06/08(土) 22:29:12.98 ID:ABaWR+nR0
「手伝うさ。俺には教会にも頼れる伝手がある。なにも魔王軍を手中におさめる必要はない」
281: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/06/08(土) 22:29:53.18 ID:ABaWR+nR0
日の光が僅かにさしこむ倉庫。その、両脇には木箱が高く積み上げられ少ない日差しを更に遮っている。どこか懐かしい香りのする場所だ。
千鳥足テレポートは大成功だった。そこには、扇情的に縛り上げられた彼女の体を片手でほどくこうと苦戦している魔王がいた。
282: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/06/08(土) 22:30:21.84 ID:ABaWR+nR0
魔王の驚いた表情を見るのは、今日だけで何度目であろうか。俺たちが、千鳥足テレポートを使えることを知らない魔王にとっては、俺たちがいかにして魔王を追ってこれるのか理解ができないのであろう。
木箱の山のお次は、樽が大量に敷き詰められた石造りの部屋だった。部屋には冷たい空気が満ちていた。どうやら、何かの保管庫らしい。そこには、窓が一つもなく蝋燭の灯だけがゆらゆらと俺たちの姿を照らしている。
283: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/06/08(土) 22:30:48.64 ID:ABaWR+nR0
どうしてこの魔法を使った後は、みんな驚いた表情で出迎えてくれるのだろうか。いや、突然何もないところから腰から頭を吊り下げた男が現れたらそうなるのも仕方ないか。というわけで、大柄で禿頭の男は俺たちを見て開いた口がふさがらない様子を見せつけてくれている。
その手には、酒をグラス注ごうと傾けられたビンが握られており、驚きで固まった大男は既にグラスが酒で満ち溢れているのに構わず注ぐ手を休めようとしていない。……って、この大男、いつかの宿屋の主人ではないか。
284: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/06/08(土) 22:31:14.71 ID:ABaWR+nR0
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
285: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/06/08(土) 22:31:42.01 ID:ABaWR+nR0
魔王は、隻眼のミノタウロスに支えられ小さな樽に腰かけている。周囲の魔物たちが、これでもかと甲斐甲斐しく介抱し魔王は幾分かの体力を取り戻したようだ。
286: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/06/08(土) 22:32:09.18 ID:ABaWR+nR0
俺は、軽やかにステップを踏み身体の調子を整える。対する魔王は、付けたばかりの義手を相変わらずグルングルンとまわしている。
「合図が必要だな」
287: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/06/08(土) 22:32:35.64 ID:ABaWR+nR0
一体何発のパンチを見舞い、何発のパンチをもらっただろうか。膝が震え、肩を揺らし、目は腫れ視界がかすむ。まともな人間、まともな魔族であれば幾百回の死を迎えるであろう威力を正面から受け止め俺と魔王はともに限界を迎えつつあった。
白く霞んだ世界から、突然魔王の拳が目の前に現れた。精神が高まっているせいか、その拳はひどくゆっくりと俺に向かって飛んでくる。何とか交わそうと、上体を揺らすが力が思うように入らない。
288: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/06/08(土) 22:33:03.37 ID:ABaWR+nR0
ミノタウロスが、俺の顔を覗き込んでくる。
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