遊び人♀「おい勇者、どこ触ってんだ///」
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279: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/06/08(土) 22:28:45.89 ID:ABaWR+nR0
 魔王も、千鳥足テレポートが使えるのか。だが何故、普通のテレポートではなく千鳥足テレポートを使ったのだろうか。そんな俺の疑問を察して、遊び人が間髪入れずに声をかけてくる。


「普通のテレポートじゃ、私に逃げ先を悟られると思ったんでしょ! 勇者! 私たちも千鳥足テレポートで追うよ!」


「だめだ……俺は、もう千鳥足テレポートはつかえないんだ」


「はい?」


「なあ、俺の顔を見てくれ。ウイスキーを飲んでも、ちっとも赤くなってないだろう?俺の中の女神の力が、俺を酒に酔えない身体にしてしまったんだ。魔王を倒さない限り、俺の体はこれからもずっと酒に酔うことはないんだ」


 遊び人は、驚きの表情を浮かべ固まってしまった。何かを必死に考えているのだろうか、時折「でも」とか「だって」と口に出しているがあとが続かない。


「酔えない俺に、千鳥足テレポートは使えない。つまり、もう魔王を追うことはできないんだ」


 俺は、再び言い聞かせるように遊び人に伝えた。


「だ、だったら、なおさら魔王を追わなくちゃ。キミはともかく私は酔っているんだから、二人でなら千鳥足テレポートはつかえるはずよ。それに魔王を倒せば、またお酒に酔えるようになるじゃない!」


 遊び人の提案は、確かに一考の余地のあるものだった。たしかに、二人でなら千鳥足テレポートが発動するかもしれない。だが、失敗したらどうなる。以前、遊び人が一度目の失踪を果たしたとき俺は幾度も千鳥足テレポートを試み、失敗した。あの時の、鼻をつんざく海水の痛みが思い起こされる。もし海にでも、川にでも落ちたりしたら頭だけの彼女はどうなる。自ら浮き上がる術も持たずに、暗い水の底へと沈んで行ってしまうのではないだろうか。


「無理だよ遊び人。……それに俺はもう勇者じゃない、俺は《ビール》なんだ。もう俺に魔王を倒す理由はない」


 俺は、彼女に千鳥足テレポートを使わせぬべく適当にそれらしい理由を並べ立てる。


「じゃあ、私の為に追ってよ。勇者に理由がなくても私にはあるの! 世界中の皆が普通に酒が飲める世界を作るのを手伝ってよ!」


 遊び人の声は、震えている。だが、俺にはその理由がわからなかった。


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