288: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/06/08(土) 22:33:03.37 ID:ABaWR+nR0
ミノタウロスが、俺の顔を覗き込んでくる。
「やれるが?」
俺は、目だけで肯定を伝える。
「よじ、やれ! ふぁいっ!」
魔王が驚いた表情で俺の姿を見ている。なぜ、立ちあがれる。もう、お前は倒れたではないか。そういいたげな顔だ。
「もうっ、貴様の負けだっ……!認めろっ勇者ぁっ!」
魔王の表情に再び恐怖が浮かび上がる。そうだ、お前は俺を恐れていたのだ。腕を斬りおとされ、徹底してその姿を地下へとくらましたのは、何より勇者が怖かったからだ。恐れは、剣を鈍らせる。お前は、このリングに立った時点でもう負けていたんだよ。
俺の拳が、既にヘロヘロで、虫すら殺せない威力であったが、それは確かに魔王の頬へとたどり着いた。魔王の目からは、光が消え、そのまま仰向けに倒れこむ。
ミノタウロスが、魔王へと駆け寄り。声をかける。そして、何かを悟ったかのように立ち上がり両手をクロスさせた。
その瞬間、地鳴りのような大歓声が倉庫に響き渡った。後の世に、その声は遥か王城まで届いたと言われるほどの大歓声が、人も魔物も分け隔てなく勇者の勝利を称えた。
296Res/317.15 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20