289: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/06/08(土) 22:33:30.82 ID:ABaWR+nR0
翌朝、目が覚める。傍らには、遊び人の頭が転がっていた。すやすやと気持ちよさそうに、寝息を立てている。
周囲を見渡すと、倉庫の地べたに魔物も僧兵たちも入り混じれて雑魚寝している。倉庫の中には血や汗、そしてビールの混じり合った酷い匂いが立ち込めている。どうやら、勇者の祝勝会と魔王の残念会が同時に、そして盛大に行われたらしい。
ひどい頭痛に、思わず頭をおさえ唸り声をあげる。
「起きたか……勇者」
大樽に寄りかかった魔王が、声をかけてくる。その腫れあがった顔が、昨日の激戦を思い起こさせる。だが、その程度気にもとめないばかりに、魔王の右手にはビールジョッキが握られていた。
「娘を襲った変態に負けるとはな……我は父親失格だ」
「お義父さん……」
「お義父さん言うな」魔王はそういって、俺に手招きする。
痛む身体を引きずるように、魔王へと近寄ると彼は俺にビール瓶を寄越してきた。
「グラスはないから、悪いが貴様は瓶だ。……乾杯といこうじゃないか」
「完敗? 俺の勝ちってことでいいんだな?」
俺の軽口に、魔王はフッと笑って「どっちでもいいさ」と呟いた。
俺は、魔王の隣に腰を下ろし瓶を受け取る。
「乾杯」
今となっては、どちらが発声したのかはわからない。だが、俺たちは長年の因縁を乗り越え初めての乾杯を交わした。
男たちの汚い寝息の中で、ぶつかりあったジョッキとビール瓶がカチンと乾いた音を響かせた。
そして俺は、その日久方ぶりの酷い二日酔いに悩まさることとなった。
――――――
ラストオーダー
最後の一杯 勇者根性スピリッツ
おわり
――――――
296Res/317.15 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20