287: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/06/08(土) 22:32:35.64 ID:ABaWR+nR0
一体何発のパンチを見舞い、何発のパンチをもらっただろうか。膝が震え、肩を揺らし、目は腫れ視界がかすむ。まともな人間、まともな魔族であれば幾百回の死を迎えるであろう威力を正面から受け止め俺と魔王はともに限界を迎えつつあった。
白く霞んだ世界から、突然魔王の拳が目の前に現れた。精神が高まっているせいか、その拳はひどくゆっくりと俺に向かって飛んでくる。何とか交わそうと、上体を揺らすが力が思うように入らない。
魔王の拳が、俺の額にあたった。乾いたパンという音に、限界を迎えた肉体と精神が同じくはじけ飛んだ。俺は、前のめりにゆっくりと崩れおちた。
ミノタウロスが駆け寄ってきて、高らかに腕をあげカウントをはじめる。
「1、2、3……」
あぁ、遊び人。やっぱりキミのお父さんは化け物のように強い男だ。長年の旅で身に着けた、如何なる耐性をもってしても奴の拳を耐えきることがついぞできなかった。
声がきこえる。だが、その優しい声は猛々しい男たちの声援にかき消されてしまう。
4、5、6……
「ゆ……ひざ……ら!」
ああ、気持ちいい。自身が不眠症であることが信じられないくらい、今日は安らかに眠れそうだ……。
「ひざま……らし…あげ……!」
誰だ? それになんだ? 人の睡眠を邪魔するのは……。
7、8、9……
「魔王に勝ったら、今度は私が膝枕してあげるっていってるの!」
俺の体は、まるで羽が生えたかのよう軽くなる。気づけば、俺は既に立ち上がっていた。
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