286: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/06/08(土) 22:32:09.18 ID:ABaWR+nR0
俺は、軽やかにステップを踏み身体の調子を整える。対する魔王は、付けたばかりの義手を相変わらずグルングルンとまわしている。
「合図が必要だな」
焦れたミノタウロスが、そう呟き隣に立っていた僧兵から兜を奪い取る。そして、それを持っていた斧でカーンと打ちならした。
魔王の右ストレートが、俺の左頬へと突き刺さる。あまりの速さに、俺は魔王の動きを全く捕らえられなかった。意識が転よりも高く飛びあがりそうなのを、歯を食いしばって耐える。
俺は、お返しとばかりに拳をふりあげ、魔王の顎を砕いてやる。確かな感触があった。だがしかし、魔王は倒れない。
ステップを刻む暇などない、超近距離のインファイトが続く。お互いが互いの急所へと必殺の一撃を見舞い合う、ただそれだけの戦略性から最も遠くかけ離れたただの肉弾戦だ。だがそれは、美しさからの欠片もないその戦いは男たちの血をを熱くたぎらせた。一歩も引かずに、拳の応酬をつづける両者に魔物達も人間達も変わりなく声援を送った。
「させ! カウンターだ! ほら今だ、させ! 勇者っ!」
大司教の皺がれた声には、年不相応な熱がこもっていた。そして、その右手にはなみなみと注がれたビールジョッキが握られている。
「うひょおおお! なんですか今のアッパーは! あんなの食らって立ってられるとは流石魔王様!」
炎魔将軍が、その姿に似合わず甲高い歓声をあげる。その右手には、やはりビールジョッキが、そして呆れることに左手には乾きものが握られている。
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