285: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/06/08(土) 22:31:42.01 ID:ABaWR+nR0
魔王は、隻眼のミノタウロスに支えられ小さな樽に腰かけている。周囲の魔物たちが、これでもかと甲斐甲斐しく介抱し魔王は幾分かの体力を取り戻したようだ。
俺は、決戦に備えクロークをぬぎ、剣をはずす。すると、頼みもしないのに僧兵の一人が恭しくそれを預かってくれた。
「勇者、ついに使命を果たす時がきたな」
なんとか息を整えた大司教が、俺の背をポンと叩く。
「しっかりやってこい!」
俺はコクりとうなずき、腰に吊り下げていた遊び人の頭を大司教に預けた。大司教は、「げっ」と顔をしかめながらも、彼女の頭を大事に受け取ってくれた。
正面を見据えると、既に新しい義手を取り付けた魔王が腕をグルングルンとまわしている。こちらの視線に気づいた魔王は、先ほどまでの弱弱しい男とはまるで別人と思えるほど生気に満ち溢れている。なるほど、王として情けない姿は配下に見せられないということか。
「……さて勇者よ。もう追いかけっこはおしまいだ。憎き女神の使徒であり、超ド級の変態である貴様を倒して我が魔王軍の勝鬨としてくれる! 」
魔王の後ろからは、炎魔将軍が憎々し気に視線を送ってくる。
「勇者! 約束を違えるとは見損なったぞ!」
批難の声をあげる炎魔将軍に、俺はフンと鼻を鳴らす。そもそも、酒の席で約束をする方が悪いのだ。
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