遊び人♀「おい勇者、どこ触ってんだ///」
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282: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/06/08(土) 22:30:21.84 ID:ABaWR+nR0

 魔王の驚いた表情を見るのは、今日だけで何度目であろうか。俺たちが、千鳥足テレポートを使えることを知らない魔王にとっては、俺たちがいかにして魔王を追ってこれるのか理解ができないのであろう。


 木箱の山のお次は、樽が大量に敷き詰められた石造りの部屋だった。部屋には冷たい空気が満ちていた。どうやら、何かの保管庫らしい。そこには、窓が一つもなく蝋燭の灯だけがゆらゆらと俺たちの姿を照らしている。

 
 魔王が、樽を抱え上げ俺へと投げつけてくる。樽の剛速球を、なんとか受け止め地面に置く。樽の中身が、ちゃぷんちゃぷんと液体特有の音をあげる。間髪おかずに、二個目三個目の樽が飛んでくるが、俺はそれを受け止めつつ魔王へと前進を続ける。


 足を止めない俺を見て魔王の表情に、恐怖が浮かぶ。


「こっちに来るなあああああああああ!」


 数えきれないほどの樽が、魔王によって放られた。俺は、その一つを受け止めきれずに顔にもらってしまう。だがチート耐性の頑丈な頭に、割れ砕けるのは樽の方だった。砕けた樽は、そのの中身を俺の全身へと浴びせた。頬を伝う液体をチロリと舐めると、それは質のいい赤ワインだった。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 突然、何処に潜んでいたのか縄をほどかれた彼女の体が、頭がないはずなのに腹に響く重低音をまき散らしながら俺へと突進してきた。デュラハンの血が覚醒したのか、先ほど戦った時よりも幾分も力が増しているように感じられる。彼女の体は、俺の背後から組み付き俺の歩みをとめる。彼女の膂力に屈したわけでは無い、背中に当たっている何か柔らかいものが一瞬俺の思考を止めてしまったのだ。


「おい! 密着しすぎだ我が娘よ!」


 俺は、魔王の言葉に我を取り戻し、反動をつけ遊び人の体ごと前転をくりだす。俺の体を軸に、大きく円を描いた遊び人の体は地面にたたきつけられた。


「ぐえ」


 俺の腰のあたりから、カエルがつぶれたような声が届いた。む、彼女の頭が、その体とダメージを共有していることをすっかり忘れていた。だが今は、そんなことを気にしている余裕はない。俺は、倒れ伏せた遊び人の両足をつかみ思いっきりのフルスイングをかます。


「ぐえええええ」


 先ほどよりも、僅かだが確実に大きくなったうめき声が届いたところで俺は一気に手を離す。宙に舞った彼女の体は、魔王のほうへと飛んでいき、それを受け止めた魔王は勢いそのままに石の壁へと叩きつけられた。



「ち、千鳥足テレポート!」


 再び、テレポートで飛んだ魔王をしり目に俺はワイン樽に拳をたたきこむ。割れた樽から、流れ出るワインを手ですくって口へ運ぶ。


「おい! 私にも! 私にも!」


 腰で騒ぐ遊び人の口元にも、ワインを運んでやる。彼女は、俺の手ずからであることを気にする様子もなくワインを飲んで見せる。
 

「いくよ! 千鳥足テレポート!」


 そしてワイン蔵に元の静寂が訪れた。


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