283: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/06/08(土) 22:30:48.64 ID:ABaWR+nR0
どうしてこの魔法を使った後は、みんな驚いた表情で出迎えてくれるのだろうか。いや、突然何もないところから腰から頭を吊り下げた男が現れたらそうなるのも仕方ないか。というわけで、大柄で禿頭の男は俺たちを見て開いた口がふさがらない様子を見せつけてくれている。
その手には、酒をグラス注ごうと傾けられたビンが握られており、驚きで固まった大男は既にグラスが酒で満ち溢れているのに構わず注ぐ手を休めようとしていない。……って、この大男、いつかの宿屋の主人ではないか。
「ままままたかよ! 頭のない死体を担いだ片腕の男の次は、頭を腰に吊り下げた男かよ……って、兄ちゃんどこかで?」
主人に構わず視線を動かすと、今まさに遊び人の体を担いだ魔王が更なる千鳥足テレポートで飛び立つ瞬間だった。
俺は、落ち着いて懐から銀貨1枚を取り出し、主人の前に置いて見せる。
「こりゃなんだ?」
「酒代だ」
俺は、主人の前に置かれたグラスを奪い喉に流し込む。
やはり机に置かれていた酒瓶は、遊び人の口に直接差し込んでやる。
懐かしい不味さに胃が拒絶反応を起こす。「まずいまずいまずい!」と「こんなものを流し込むな」と悲鳴をあげたのだ。だが、その不味さに不快さはない。それどころか、なぜか愉快な気持ちになってくる。二人で飲めば、こんなにまずい酒でも楽しいのか。その事実がまた、俺を愉快にさせる。
視線を下に落とすと、遊び人が準備完了とばかりにウインクして見せた。
「千鳥足テレポート!!!」
魔王、逃げても無駄だ。俺たちは、どこまででもお前を追い続けるぞ。
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