73: ◆PL.V193blo[sage]
2018/04/20(金) 21:23:14.09 ID:NMaauvKO0
「――――向井、腹は減っとらんか? 傷は悪くはないか」
顔半分吹っ飛ばされた重傷で、やつは腰を屈めて新米隊士の世話を焼いている。
74: ◆PL.V193blo[sage]
2018/04/20(金) 21:24:02.14 ID:NMaauvKO0
「逃げろ、貴様」
もう、我慢がならなかった。
川島がこいつのへらへら顔を見るとき、時折、無性に苛立ちを覚えたのは、他人の事ばかりおもんばかるこいつの優しさが、たまらなくむず痒かったからだ。
75: ◆PL.V193blo[sage]
2018/04/20(金) 21:24:54.20 ID:NMaauvKO0
「川島さん。あんた結構、すぐ泣くなア。侍が軽々しく、涙など流してはなんねぇ」
憎まれ口も、すぼんでしもうたな。こいつの強い理由が、はっきりとわかったから。
退くな、と響いたやつの叫びを思い出す。
きっと人生ってやつも、そうなのかもしれない。決して退いちゃいけないところを、命を懸けるべき“死に場所”ってものを、しかと弁えたるのが男ってものだ。
76: ◆PL.V193blo[sage]
2018/04/20(金) 21:26:02.39 ID:NMaauvKO0
「――――――降れと申すか? 貴様」
「さに申してはおりませぬ。しかし会津に千万両のご恩を賜りし我ら、会津と運命を共にせぬものが一人もおらぬのは、忍びませぬ」
差し向かいの男は、大あぐらをかいて左手の杯を舐めている。
77: ◆PL.V193blo[sage]
2018/04/20(金) 21:27:33.80 ID:NMaauvKO0
「……いつもの、検討外れの気遣いか。たわけめ。死に場所を奪われたる者達が、恨みこそすれ、感謝などしようものかよ」
「既に百の命を奪い、千の怨みを買うたる我が身。今さら、生者の恨みなどなんとしましょう」
味方すら恐れさせるこの男とまともに正面から話すのは、幹部を除けば生々しく血ぐされた包帯で顔の右半分を覆った、この若者くらいのものであった。
78: ◆PL.V193blo[sage]
2018/04/20(金) 21:28:01.23 ID:NMaauvKO0
「わしに、生きろてか。このたわけが」
包帯に新たな血が滲む。しかし左目は瞬きすらせず、炯炯と光る両眼を見据えていた。
「貴様ごときが、いっぱしの口を聞いて隊の方針を意見し、あまつさえ死に場所さえ、このわしに指図しようと言うのかね?」
79: ◆PL.V193blo[sage]
2018/04/20(金) 21:34:17.49 ID:NMaauvKO0
「――この、日本の!」
右側に置いた太刀を手に取った瞬間、小僧の矢のような一声が男を射抜いた。
80: ◆PL.V193blo[sage]
2018/04/20(金) 21:36:47.67 ID:NMaauvKO0
◇◇◇◇
「あんっ……! だめ、ですよぉっ……プロデューサーのドSぅ……」
「……なんの夢見てるのか知りませんが、起きたらすっぱり忘れていてくださいね」
81: ◆PL.V193blo[sage]
2018/04/20(金) 21:43:33.10 ID:NMaauvKO0
「……僕は、貴女に逢えてから、人生が楽しくなりましたよ」
貴女の名を、呼ぶのが好きです。貴女が笑っているのが、僕はうれしい。
僕という男は多分、案外空っぽな、中身のない人間なんでしょう。
貴女が輝けるのなら、幸せになれるのなら、別に他には、何も要らないから。
82: ◆PL.V193blo[sage]
2018/04/20(金) 21:46:15.89 ID:NMaauvKO0
「かえっ」
俺の言葉よりも、早かったろうか。
椅子についていた右手を、パッと上から被せるように押さえて、睫毛の節がわかるくらい近く、クイッ、と、楓さんが顔を寄せた。
83: ◆PL.V193blo[sage]
2018/04/20(金) 21:48:50.51 ID:NMaauvKO0
「続きは?」
「!? つ、続きはって」
「そこまで想って下さるなら、その先があるはずです。私に逢えて、幸せで、それで、あなたはどうしたいんです?」
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