高垣楓「君の名は!」P「はい?」
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73: ◆PL.V193blo[sage]
2018/04/20(金) 21:23:14.09 ID:NMaauvKO0


「――――向井、腹は減っとらんか? 傷は悪くはないか」

顔半分吹っ飛ばされた重傷で、やつは腰を屈めて新米隊士の世話を焼いている。

「おまんの威勢はわしらの恃みじゃ。気張れよ、特攻隊長」

その屈託のない笑みを、やつは残った左半分の顔いっぱいを使って浮かべる。
その姿はおそらくにして、俺たちが往年の大幹部や隊長格を仰ぎ見ていたがごとく、いまだ戦場の何たるかを知らぬ少年隊士たちには、さぞや頼もし気に映ったであろうな。
やつの笑みには、不安を取り攫うような、不思議な力があったものだ。

「ふははっ、おにぎり様は逃げねぇぞ。ゆっくり食べれぇ」

まるで神仏からの御代物のように、心底ありがたそうに目に涙を溜めて握り飯を頬張る横顔は、まるっきりまだ前髪も取れぬ、あどけない子供のそれであった。
いや、きっと端から見りゃあ――――俺たちとて、変わらなかったのかも知れぬ。

ぽん、と少年隊士の肩を叩いたあいつとてまだ、実際の齢は二十歳をやっと過ぎた程度であった。
考えてみれば、泣く子も黙る我らが鬼の副長ですら齢三十四、あの大貫禄の近藤局長とて、斬首されたはわずか三十五。講談話で巷を湧かせた大幹部や剣豪たちも、みな二十代半ばの青年であった。

つくづく、ただ一途に剣のみを恃みにした、向こう見ずであったよ。
自らの生き死になどを知るには、我らはあまりにも若すぎたのだ。

「川島せんせ」

手の中に隠すように笹の包みを大事そうに抱えて、小走りで戻ってきた。

「最後のひとつですた。やぁーや、残って良かった。さっ、食べましょや」

会津の皆様から分けてもらいましただ、などと言いながら、当然のように二人で分けようとばかり、目の前で包みを広げた。
新撰組の人斬り某じゃ、と言えば酒だの飯だの、すんなりと出てきただろうに、この人の良さそうな笑顔でぺこぺこと頭を下げながら、会津軍の小荷駄から分けてもらって、年少の者から順繰り配っておったのだろう。
恐らく、俺が自分の分の握り飯を下の者に回したのも察しつつ、つつが無いように、最後には俺にもきちんと飯があたるように斟酌してな。




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