高垣楓「君の名は!」P「はい?」
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74: ◆PL.V193blo[sage]
2018/04/20(金) 21:24:02.14 ID:NMaauvKO0
「逃げろ、貴様」

もう、我慢がならなかった。
川島がこいつのへらへら顔を見るとき、時折、無性に苛立ちを覚えたのは、他人の事ばかりおもんばかるこいつの優しさが、たまらなくむず痒かったからだ。

「いい加減、こんなことにもう付き合うな。もう十分戦ったじゃねえか。さっさと辞めにして、女と生きろ」

それは、懇願に近かったかもしれない。
こいつが地獄の仏でも超人でもないことを、ただのひとりの男に過ぎぬことを、俺は知っている。
お前、言っていたじゃないか。武士の体面など関係ない、惚れた女にもう一度逢いたいだけなんだと。
どうすんだよ、そんな顔になっちまって。どの面下げて、女を迎えに行くんだ。
死ななくていい人間が死に狂うのを見るのは、もうたくさんだ。

「ひとりにしてはならない。ひとりで、戦わせてはならない。新撰組なら、誰もが知っている事です」

片っぽになってしまった震えるような長い睫毛を閉じて、ヤツは静かに首を振った。

「誠一字に、わしは誓いば申した。『死なぬ』と。けんどその為に節ば曲ぐるならば、誓いを果たしたとは言えねぇでしょう。誓いば果たさずして、自ら旗を折る事ば、でき申さぬ」

魂は左目に宿る、という心得が剣術にはある。
俗説みたいなものだが、こいつの残った左目は、正眼の構えの如くまっすぐ前を向いていた。
千両松では源三郎さんが死んだ。吉村さんも死んだ。
この戦場には、藤堂も原田も、沖田先生も永倉先生も居なかった。
近藤局長も、斬首された。
新撰組はもう、粉々になっちまったんだ。
だのに、みんなして舞台を降りちまったってのに、お前はまだ戦うというのかい。

「俺には帰る場所など無い」
「在る。あんたが死んだら、嘆く人が居る。死に場所は、捨て鉢になって求めるもんではねぇ」

目の前のなよっちい男が、急に頑とした骨太の男に思えた。
死ぬること、生くること、こいつは既に答えを出していたのかもしれない。




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