高垣楓「君の名は!」P「はい?」
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75: ◆PL.V193blo[sage]
2018/04/20(金) 21:24:54.20 ID:NMaauvKO0
「川島さん。あんた結構、すぐ泣くなア。侍が軽々しく、涙など流してはなんねぇ」

憎まれ口も、すぼんでしもうたな。こいつの強い理由が、はっきりとわかったから。
退くな、と響いたやつの叫びを思い出す。
きっと人生ってやつも、そうなのかもしれない。決して退いちゃいけないところを、命を懸けるべき“死に場所”ってものを、しかと弁えたるのが男ってものだ。
倒れていたら、とどめを刺される。向かい風がどれほど理不尽に吹いても、立ち向かって前へ進んでいくしかないんだ。

最期の時がやってくる、その日まで。

お天道様が決めてしまったどうしようもない理不尽に、やつは全力で抗っていたんだな。
人智じゃどうにもならぬ巨大なものに、こいつは臆さず立ち向かった。気圧されてもぶっ潰されても、立ち上がって剣を振った。折られてたまるかと、挑み続けたのだ。

あのときの叫びは、こいつが胸に掲げ続けた誠一字そのものだったのだ。

矛盾だらけであるよ、こいつのやってきたことは。子供と遊んだり拾い猫を育てるのが趣味のようなくせして誰よりも人を斬り、銭金の為だと言いながら手前の為には一切使わず、自分のことしか考えておらぬと言いながら殿で戦い続けて、こんなところまで残ってしまった。
人間なんて所詮、落ち目の土壇場にならないと本当の姿はわからんものだ。こいつは馬鹿と呼びたくなるほど不器用で、呆れるほど損得勘定の出来ぬ男だった。

「……なあ、川島さん。このひでぇ戦争で死んじまった奴等が、この先の十年、三十年、遠い未来の、平和な時代を生きることが出来たとしたら……きっと、色んな事をやったんでしょうなぁ」

すかんと晴れた青空を仰ぎながら、やつはそんなことをつぶやいた。
お前の残った目に見えた未来は、どんな形をしている。きっと侍などは居ないだろう。身分の差はどうだろうな。
誰もが自由に生きられる、そんな世の中か?
誰が生きるべきかは、わかっていたよ。だが目の前の男を、押し留める言葉は、すでに俺はもたなんだ。

「貴様は、わがままだ。とんでもなく、わがままだぞ」

男として世の中の誰より筋の通ったことをしている人間に、こんなことしか言えない自分の生き方を、これほど恥じたことは、後にも先にも無かった。
やつは、困ったように頬を掻きながら、優し気に笑っていた気がする。


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