2: ◆.s5ziYqd8k
2018/04/16(月) 21:59:05.18 ID:xaEfnyHJ0
真っ白な空気。息を吐くと肺の底から冷たくなる。
睨みつけた的が小さく震えて、指から離れた矢がいつの間にか貫いていた。
……。
3: ◆.s5ziYqd8k
2018/04/16(月) 22:01:30.55 ID:xaEfnyHJ0
「ユミカは今日もかわいいねぇ。こりゃ空の人も惚れちゃうね」
「そんなことないよ……やよいの方が可愛い」
「あっはっは、ありがとありがと。旅立ちにはおしゃれしないとねぇ」
4: ◆.s5ziYqd8k
2018/04/16(月) 22:02:58.50 ID:xaEfnyHJ0
空の街。地上からは見えない街。
そこに行きたいなら決められた場所から、不思議な手続きでないとダメ。
「ようこそ高天原へ。空を支える神の地をお楽しみください」
5: ◆.s5ziYqd8k
2018/04/16(月) 22:04:12.97 ID:xaEfnyHJ0
和服の人がいる。洋服の人がいる。武家屋敷がある。ドラマで見るより華麗な街がここにある。
映画のセットのような街並みを抜けると、前髪が汗で貼り付いていた。鬱陶しい。
「あっははは、ユミカ、汗だくだぁ。えっちぃね」
6: ◆.s5ziYqd8k
2018/04/16(月) 22:05:19.94 ID:xaEfnyHJ0
…………。
そういえば。
私達は普通にここまで来てしまったけど、たぶん、知っていなければ驚くことは他にもあった。
7: ◆.s5ziYqd8k
2018/04/16(月) 22:06:11.28 ID:xaEfnyHJ0
街を跨いで『柱』の根元へと龍が降りる。
「ご苦労、大儀である。よしよし」
「ありがとうございました」
8: ◆.s5ziYqd8k
2018/04/16(月) 22:06:57.34 ID:xaEfnyHJ0
『柱』とは言うけれど、建物としては京都にあるような五重塔が延々と続いているようなもの。
中には階段があって意外と観光客で賑わっている。私も含めてみんな同じ入場記念のレンズをぶら下げているのがいかにも、な気がする。
……人がたくさんいる。私はこういうとき、大して使い物にならない。急いで前髪を下ろして視界を狭めた。
9: ◆.s5ziYqd8k
2018/04/16(月) 22:08:06.00 ID:xaEfnyHJ0
白いワンピースに青色が重なっているのに、それを着る私は雨雲のように暗い。
目の前でやよいとガイドさんは楽しそうに話している。私は、暗い。
「そりゃ振られるよぉ、女心ってのが分かってないね。唐変木、朴念仁、ゲスの極み。お? あれなに?」
10: ◆.s5ziYqd8k
2018/04/16(月) 22:10:10.41 ID:xaEfnyHJ0
一階上がるごとに観光客は少なくなって、厳かな静けさが増えていく。
「なぁーんだかなぁーんも無いんだね。パネル展示とかさ、もうちょい増やした方がいいと思うなぁ」
やよいは口ではそう言いながら、興味深そうに目を細めながら走り回っている。
11: ◆.s5ziYqd8k
2018/04/16(月) 22:11:03.88 ID:xaEfnyHJ0
不思議、不思議なことだらけだ。この空街は不思議に溢れている。
次の不思議に気付いたのは100階を越えた時だった。前髪が揺れて、景色がさながら櫛状に刻まれる。
「あれ……」
12: ◆.s5ziYqd8k
2018/04/16(月) 22:12:02.33 ID:xaEfnyHJ0
『世界は誰が作ったのだろう。
君はそんなことを考えた事はあるかい?
神が造ったのなら、その神とはいったいどんな存在なんだろうね。
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