5: ◆.s5ziYqd8k
2018/04/16(月) 22:04:12.97 ID:xaEfnyHJ0
和服の人がいる。洋服の人がいる。武家屋敷がある。ドラマで見るより華麗な街がここにある。
映画のセットのような街並みを抜けると、前髪が汗で貼り付いていた。鬱陶しい。
「あっははは、ユミカ、汗だくだぁ。えっちぃね」
「……やよいのせい」
「ごめんごめん。それより見てよ、下界の民があくせく働いておるのう、ゆかいゆかい」
やよいのほっそりとした指が、道の途切れた崖の外、私達の住む街をなぞる。
手すりの下からは優しいそよ風が吹き付ける。額の汗が少し引いて、私は目を細めた。
高いビルすらオモチャのよう。キラキラ光る街の灯り。飛行機が下の方で雲の海を泳いでいる。
少しだけ身体を傾けてみると、真下にどこかの湖が見えた。
「不思議……こんなに高いのに、少しも怖くない」
「ガイドブックによるとねえ、不思議と手すりの向こうには落ちないらしいよ。不思議世界だねー」
「うん。それに、あれ」
「うん、アレ。まっさかーとは思ってたけどホントにあるんだねぇ」
私にとって不思議なもの、驚くべきものは、下ではなく上にある。
前髪を払って見上げた抜けるような青空。それを支える、巨大すぎる柱がそこにはあった。
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