14: ◆U.8lOt6xMsuG[sage saga]
2018/04/09(月) 00:09:45.32 ID:BEFLqt5g0
「アタシが…」
私は自分の事を、社会の片隅で、コッソリ生きていくのが性に合っている人間だと思っていた。漫画を描いて、食べて、寝てれば幸せな生き物なのだと、そう思っていた。
15: ◆U.8lOt6xMsuG[sage saga]
2018/04/09(月) 00:10:17.53 ID:BEFLqt5g0
チクタクと、時計の秒針の音をBGMに、私は昨日投げかけられた言葉を思い返していた。
『比奈にもいつか、きっと夢が見つかるって!』
16: ◆U.8lOt6xMsuG[sage saga]
2018/04/09(月) 00:10:50.39 ID:BEFLqt5g0
彼…プロデューサーさんと別れる前に、アタシは一つ条件を出した。それは、「アイドルするのは、今描いてる32ページを終わらせてから」というもの。プロデューサーさんは「終わったら連絡して欲しい」とだけ言って、もう一枚名刺を渡してきた。もうもらいましたよと指摘すると、恥ずかしそうに懐にしまった。
そして今は、ペン入れの真っ最中。驚くほどに筆は乗り、過去でも一、二を争うほど作業スピードがいい。
17: ◆U.8lOt6xMsuG[sage saga]
2018/04/09(月) 00:11:24.59 ID:BEFLqt5g0
◆◇◆
「と、まあ、こんなところっスね」
18: ◆U.8lOt6xMsuG[sage saga]
2018/04/09(月) 00:12:09.29 ID:BEFLqt5g0
午後11時30分。鍋もケーキも食べ終わって、後片付けも(「主役は座ってて」と主に二人が)した。二人はもう寝ている。明日がオフの私と違って、二人には仕事があるし、このままぐっすりとしてもらおう。本当はまだまだおしゃべりがしたかったけど、しょうがないよね。
私は一人起きて、スマホの画面を眺めていた。
19: ◆U.8lOt6xMsuG[sage saga]
2018/04/09(月) 00:13:09.34 ID:BEFLqt5g0
風が冷たい。でも体は熱い。大慌ててで電話に出る。
「も、もしもし!」
20: ◆U.8lOt6xMsuG[sage saga]
2018/04/09(月) 00:13:40.84 ID:BEFLqt5g0
疲れていながらも、彼の声は落ち着いていた。それに対して、私は巡り合わせのような、ご都合主義のようなこの状況で、心臓がバクバクしていた。だって、さっきまで思っていた人から電話がかかってくるなんて思っても見なかったことだし。
「で、でPさんは何の用っスか?」
21: ◆U.8lOt6xMsuG[sage saga]
2018/04/09(月) 00:14:24.05 ID:BEFLqt5g0
『…誕生日、おめでとう!』
22: ◆U.8lOt6xMsuG[sage saga]
2018/04/09(月) 00:14:51.04 ID:BEFLqt5g0
「…………あ……ハイ………」
『日付が変わる前に、言えて良かったよ』
23: ◆U.8lOt6xMsuG[sage saga]
2018/04/09(月) 00:15:32.79 ID:BEFLqt5g0
それから私は、二人には話していない所まで彼にお話した。将来に対して抱えていた不安、夢がなかった事による焦燥、出会えてから見つかった目標。支離滅裂で、所々跳んじゃうけど、思いが止まらずあふれ出る。
「アイドルとして楽しい日々を送ることも出来て…だから…アタシ、Pさんには感謝しかないんスよ」
24: ◆U.8lOt6xMsuG[sage saga]
2018/04/09(月) 00:16:02.29 ID:BEFLqt5g0
『うん…うん、そっか』
私達は、もっともっとお話をした。この一年の、二人で過ごした時間の話。話していると、全てが懐かしくて新しくて、出来ることならもう一度、なんてことも思ってしまう。
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