71: ◆xJHI1D1Uro[saga sage]
2017/11/10(金) 17:02:29.31 ID:/aq2I7elo
――――
ありすは激怒した。
それは合唱のパート練習の最中に起きた。
72: ◆xJHI1D1Uro[saga sage]
2017/11/10(金) 17:03:10.56 ID:/aq2I7elo
「よくわからないけど、急に、橘さんが……」
生徒たちの話は要領を得ず、気まずい雰囲気だけが何かの間違いのように続く。
すこしして帰ってきたありすに声をかけると、彼女は「トイレに」と、それだけ言った。
とにかくその日は、早々にパート練習を切り上げたけれど、大方、予想はついていた。
73: ◆xJHI1D1Uro[saga sage]
2017/11/10(金) 17:04:03.20 ID:/aq2I7elo
生徒たちは合唱の練習中も、ありすに話しかけては、何やら囁き合ってばかり。
はしゃぐ気持ちを抑えられないところは、やはり子供だな、と思うけれど、無理もない。
生徒にとって、彼女はもう、クラスメイトの橘ありすである以上に、アイドルの橘ありすだった。
74: ◆xJHI1D1Uro[saga sage]
2017/11/10(金) 17:06:10.59 ID:/aq2I7elo
「もしも、私の名前がありすじゃなかったら、こうはならなかったのに」
あるとき、ありすはうんざりした様子で、ため息をついた。
「そうしたら、クラスメイトに見つからなかったし、こんな変な風にならなかった」
75: ◆xJHI1D1Uro[saga sage]
2017/11/10(金) 17:07:38.46 ID:/aq2I7elo
ありすは目に涙を溜め、吐き捨てるように続けた。
「それなんです、みんなそうです。プロデューサーの方も、言うんです。
珍しい名前の子がいて気になったって。
……そればっかり。誰も私をちゃんと見てくれない。
76: ◆xJHI1D1Uro[saga sage]
2017/11/10(金) 17:08:59.10 ID:/aq2I7elo
――――
珍しく、ありすは遅刻した。
朝礼の時刻にも間に合わず、一時間目が始まる直前にようやく教室へやってきた。
77: ◆xJHI1D1Uro[saga sage]
2017/11/10(金) 17:09:58.45 ID:/aq2I7elo
放課後。
「遅刻なんて、珍しいね」
「ええ、まあ……」
78: ◆xJHI1D1Uro[saga sage]
2017/11/10(金) 17:10:57.42 ID:/aq2I7elo
「朝は、……その」
「うん」
「上靴が、たまたま見当たらなくて」
79: ◆xJHI1D1Uro[saga sage]
2017/11/10(金) 17:12:17.86 ID:/aq2I7elo
「ありす!」
私の声は薄暗い廊下に響いて、ありすの足をやっと止めた。
彼女の後ろ姿は蛍光灯のわざとらしい白と、窓から射す青い夕闇が混ざり合って、消えかかったように見えた。
80: ◆xJHI1D1Uro[saga sage]
2017/11/10(金) 17:13:05.27 ID:/aq2I7elo
「大嫌い」
私は胸にしまいこむように、その言葉を繰り返した。
「大っ嫌い、大っ嫌い……」
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