5:名無しNIPPER[saga]
2017/10/15(日) 16:16:27.50 ID:bD1QFtux0
「まったく、先方も許してくれたからよかったようなものの――」
「ある程度予想してくれてたんでしょ? あたしが何か言い出さないかって」
自惚れ気味な予想はあたっていたみたい。ネクタイを緩め、グラスに口付けるその仕草が、一呼吸分止まった。
6:名無しNIPPER[saga]
2017/10/15(日) 16:17:55.57 ID:bD1QFtux0
「それじゃ、乾杯も済んだことだし……」
半分ほど残ったグラスを置いて、Pさんはおもむろに切り出す。
「なになに? ごほーびならあたしほしーモノが」
7:名無しNIPPER[saga]
2017/10/15(日) 16:19:06.01 ID:bD1QFtux0
「おー、さすがは敏腕プロデューサーさまだー」
「当たり前だ。一番のファンは俺なんだから気付くにきまってるだろう」
「…………」
8:名無しNIPPER[saga]
2017/10/15(日) 16:20:12.40 ID:bD1QFtux0
「ジン……ウォッカ? あとは、ラムとか?」
「テキーラとかもあるな」
すべてまるで御伽話の飲み物のことのように遠く感じる。
9:名無しNIPPER[saga]
2017/10/15(日) 16:21:41.50 ID:bD1QFtux0
「言っただろ、それだけじゃないってのはソコなんだ。酔っぱらって、心が軽くなって、本心が出せる」
(今まさにそういう状態ってコトか)
「んー、つまり心情的に自由になれるってこと?」
10:名無しNIPPER[saga]
2017/10/15(日) 16:23:13.32 ID:bD1QFtux0
「――今日はずっとヘンだったが、今も変だな、周子」
「……ヘンじゃないどすー、ヘンなのはいつものことどすー」
Pさんは少し緩んでいた顔を難しげにした。今日これまでの出来事を振り返り、シューコのご機嫌ナナメな訳を探っているに違いない。
11:名無しNIPPER[saga]
2017/10/15(日) 16:23:43.95 ID:bD1QFtux0
いよいよ剣呑な表情になった彼をあたしは色っぽいと思う。いつもそんな顔すりゃモテるのに。あたしはいやだけど。
「家を追い出されず、それかPさんと出逢わず、あるいはあたしがその気にならず……」
そのあたりかな、可能性としては。
12:名無しNIPPER[saga]
2017/10/15(日) 16:24:26.57 ID:bD1QFtux0
13:名無しNIPPER[saga]
2017/10/15(日) 16:27:39.31 ID:bD1QFtux0
一撃で席を立ちかけたあたしの肩をPさんの手が制した。それは抱き寄せる態に似て、あたしはウッカリ従ってしまう。
悔しさ半分恥じらい半分にしぶしぶ腰を落とし、それでも精一杯のジト目で睨みつける。弁明くらいは聞いてやろう。
そんな慈悲心を知ってか知らずか、彼は目も合わさずに言った。
14:名無しNIPPER[saga]
2017/10/15(日) 16:28:31.85 ID:bD1QFtux0
「アイドルになろうとなるまいと、俺と会おうと会うまいと、周子はどうとでも生きられたと思う」
かつて無く鋭いその目付きは薄暗い店内では何かの亀裂の様に見える。
「すんなり実家に帰って看板娘を続行してたかもしれないし、いつだったか自分で言ってたみたいに、夜を渡り歩いてびっくりするくらいの金回りで浮き名を流したかもしれない」
15:名無しNIPPER[saga]
2017/10/15(日) 16:31:11.74 ID:bD1QFtux0
何か明確な答えを期待している訳ではなかった。結局解決なんかしないから。
「ああ」
ただただあたしは、たかだか夢ぐらいで不安定になった情緒のはけ口を、たまたま隣に居る誰かに向けて、淡々とケリをつけてもらいたいだけだった。
24Res/21.33 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20